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フッ素加工でない鉄のフライパンを準備する。
その中にビー玉を投入。
カランカランとフライパンの中に転がっていく。
まんべんなく熱を通して10分ほどしたら。
氷水をボウルに用意し熱したビー玉を一気に浸す。
やけど注意。
あとはビー玉が弾けて割れることがあるので大人の人と一緒にすべし。
氷水の中ですぐにビー玉の内部がひび割れはじめる。
クラックビー玉の出来上がりだ。
私は冷やしたピンクのビー玉を取り出して専用のホルダーに粘着剤を使ってつけた。
これでピンクダイアモンド風ビー玉のネックレスが完成した。
凪君のことをつい考えてしまっていた。
あの人はハスの妖精なのかしら?
いつ行けば会えるんだろう?
ブルーのビー玉はうまくひび割れたかな?
私と会えて嬉しいって言ってた気がするけど本当かな?
なんだろう頬がにやけてとめられない。
「れね」
呼ばれて我にかえった私。今日も大地はスイカを食べにうちに来ている。
「なんかれねがニヤニヤしていて気持ち悪い。独り言も言ってたし」
「うそ」
「本当。プールの日からずっとだよ」
「いやあ、てへへ」
「ショック受けてへこんでると思って心配してあげてるのになんか全然だね」
「いやあ、てへへ」
「きいた?土倉のやつ、今度の花火大会にも着いてくるらしいよ」
「ほんと?」
「うん、気をつけたほうがいいよ」
花火大会かあ。夏だなあ。凪君のハスは今年も花火に負けてしまうんだろうか。
そう思うと少し花火が恨めしかった。
「れね、まさかだけど土倉のこと好きなの?」
「へ?」
「だーかーらー」
スイカの種を呑み込んでしまった。大地は私から顔が見えないように背後へと移動していた。
「れねの様子見てたらさ、誰かに恋してるのかなって」
「いや、土倉さんは別にそんなんじゃないよ」
「そっかあ。じゃあ。なあ。今から僕いい事言うからよく聞いて」
「はい」
「恋ってのは辛くて哀しくて切なくて苦しいもんなの」
「はあ」
「僕はれねのこと好きだから」
「え?」
「れねのことで切ない思いをしてるから」
「え?」
「いい事言ったでしょ? れね、返事を花火大会の日にして欲しいよ」
「う、ん」
大地はそのまま背中と背中を合わせてきた。
スイカに汗がしたたる。
縁側で、別々の方向を向いて、私たちはしばらくじっと背を合わせていた。
夏の哀しい1コマだった。
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グリーンのクラックビー玉をパパにあげた。
パパはたいそう喜んでそれを財布に収めてくれた。
「なあ、れね」
パパが素知らぬふりで探りをいれてきた。
「最近大地とどうなんだ? うまくやってるか?」
なんだよみんな大地、大地って。
私は内心怒っていた。
私だってぐちゃぐちゃの気分なんだ。
ずっと弟みたいに可愛がってきた大地が近頃めっきり大人っぽくなってその成長に私はついていけないよ。
そのくせ好きだなんていわれた日には。
どうしていいか困ってるんだ。
大地の持つイエローのビー玉もひび割れさせてあげた。
中には無数のダイアモンドが閉じ込められているみたいだった。
きれいだ。
泣きたくなるほどに。
10冊の大学ノートの中身を眺めた。
私たちの歴史が詰まっているノートだった。
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