宝石の欠片を君に

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「大地、きてる?」 夏の後半から急にガラガラ声になった大地は浴衣姿が似合っている。ラムネを片手になんだか背もぐっと伸びたみたいだ。 「花火、もうすぐだよ」 「うん」 元気なさげな大地に微妙に距離感を感じてしまい私は俯く。 大地の告白以後、1度だけ植物公園に凪君を探しに行ったのだ。 居なかった。 大地のことを相談できればよかったのだけど、でもそれはとてもズルいことにも思えて私はますます元気をなくした。 土倉さんもやってきた。浴衣はさすがにかっこいいが、もう以前みたいに心を揺さぶられることはなかった。 傍らには婚約者とみられる美女がいた。 大地は犬と猿みたいに彼を敵視しているようだった。 屋台がずらりと並びお祭りが始まったときの華やかさがあった。 席を確保してくれるというパパとママをおいて私たち4人はあたりを散歩して回った。 話が、弾まない。 マリッジブルーな美女は土倉さんを見ようともしない。 私と大地も何かぎこちない。 大地の胸にイエローのビー玉が下がっているのを見て私はこっそりと自分のピンクを外してしまった。 お揃い。今は誤解を招いてしまうから。 「たこ焼き、食べますか?」 大地が美女にきく。 「いえ、浴衣の帯がきつくて。あまり食欲がないの。ごめんね」 美女がいう。 「なら、金魚すくいにいかないか」 土倉さんは強引だ。 「ええ」 美女はなんとなく嫌そうだった。結果とれた金魚はゼロ匹。気乗りせぬままお祭りを巡ってお金を消費するだけの虚しさを感じた。 「智さん、そろそろ打ち上げ時刻よ」 初めて美女が土倉さんを名前で呼んだ。 だがとてもよそよそしい感じがした。 「そうだね」 私たちはパパの元に帰り土手の広場に敷いたブルーシートに腰掛けた。 「なんだ、みんな盛り下がってるね」 パパはママと2人で元気だった。 「智さん私、トイレに行ってきます」 美女はそういうと足早に去って行った。 花火が始まった。彼女は戻ってこなかった。 打ち上げ花火が夜空に美しく花開く。天気もよく、遠くまできれいに見えた。 この時間だけ、俗世のことは忘れてしまえる。 でも、みなもに映える光を見つけた瞬間、私の頭の中には凪君が思い浮かんでしまった。 「ごめんね」 大地が振り向く。 「ごめん」 聞こえるようにはっきり言った。 「そっか」 大地はゆっくりと、イエローのビー玉を外してこちらに返してよこした。 私の涙色は黄色だ。 「おじさん、俺焼きそば買ってきます、いりますか?」 「おう、3人前よろしくな」 大地は10人前を買ってきた。私のために微炭酸の林檎ジュースも買ってきた。 驚くパパを尻目にその日の大地はよく食べた。 ✦ 「花火、見に行ったんだね」 凪君を見つけた植物公園で私は写真撮影のレクチャーを受けていた。 お互いの指と指がふれてさっとはずすけれど凪君はニコニコ笑う。 「それで。1つ恋が終わったと」 凪君はどこまでも優しい。 「恋ってのは花火みたいにド派手なものじゃないんだよ。地味で目立たなくて泣きたくて辛くて哀しくて、さ。」 ハスみたいだよね。恋ってのはきっと。 「それでも人を想ってる瞬間は満たされる、一生懸命な真心のことだよ」 あの後大学ノートは大地に渡した。 凪君はクラックビー玉の写真を撮ってくれた。 「自由研究に貼り付けなよ」 と言って渡された写真には、泣きたくなるほどきれいなオーロラが中に入っていたのだった。 凪君がいる。 そばには私も。 夏が終わる。 だけど物語はこれから始まる。 凪君は静かにシャッターをきった。 言わなかったけれどモデルはきっと私だった。 私が凪君を見つめるみたいに、凪君も私を見つめる。 私たちはお互いに真心を見つけたんだ。
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