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荒れ狂う海の底のような雑木林から、光の射すほうへ、彼女が僕の手をひっぱってゆく。
「だったら、ためしに織ってみませんか」
「何を?」
「さをり織りを」
大阪の田舎の森で出会ったのは金髪碧眼、流暢な日本語を話す、ふしぎな女性だった。
招き入れられた赤い建物には、風変わりな織物が壁にかかっていた。あちこち糸が抜けていて、素人でも傷物だとわかる。そんなものをなぜ堂々と飾っているのだろう。
「でも、なんて面白いんだろう……」
なんともいえないぬくもりと味わいに惹きつけられ、僕はその場から動けなくなってしまった。本当に僕でも織れるのだろうか? だとしたら織ってみたい、そう思った。
「びっくりしましたか? これがさをり。大阪府和泉市、あなたの町でうまれた織物なんですよ」
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