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ハッキネンは往年の名スプリンターだ。荒れるゴール前スプリントでも常にフェアプレーの心やさしき紳士。しかし年齢のせいか近年勝ち星がない。ゴール前で競り合うことすらできず、勢いに勝る若手に虚仮にされているらしい。契約打ち切りも囁かれている。
フーゲンベルクは実力がありながらもツキに恵まれない。ついたあだ名がエターナルセカンド。万年二位。一度ホテルのロビーで居合わせた。背を向けて肩をふるわせていた。訊けば息子が自分のせいでいじめられているという。親父が万年二位だとおまえもだめだな、と。
チノッシは数年ほど前に病魔に冒されているとわかった。血が次第に酸素を運べなくなるという。病があきらかになった翌年、かつてマイヨジョーヌを献身的にアシストした影の英雄は、すぐさま契約を打ち切られた。いまはまともな資金もアシストも望めない弱小チームのエースとして、命を縮めるようなオーバーワークを強いられている。
そして、デュラン。たった一度世紀の大逃げを決め、国のヒーローになった。ひとときの栄光に酔いしれた。だれもがデュランを褒め讃えた。しかしその後思うように成果があげられない。次第にファンは離れていった。デュランは孤独とプレッシャーに耐えきれず、酒に逃げた。やがて人目に怯え、勝負することをも避け、ここにいる。
きょうのステージは、この四人ですでに二百キロ以上逃げている。みな限界だった。
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