瞳のなかのフラムルージュ―逃げ出した男―

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そうやって逃げてばかり。いったいいつになったら戦うわけ?  さよならデュラン。投げつけられた指輪は、デュランの胸を撃ち抜いた。  きょうもまた祭りがはじまる。今年度のツールドフランス最難関のステージは昨日に終えた。だが観客の興奮は留まるところをしらない。きょうはどんなドラマが起こるのかと胸を躍らせている。総合成績一位の選手のみが着用をゆるされる、栄光の黄色いジャージ、マイヨジョーヌのゆくえは未だ混沌としている。しかしデュランは知っていた。自分にこのジャージを着る力も資格もなければ、声援もないことを。  スタート直後から飛び出したデュランに戦う気はさらさらなかった。チームからの指示はただひとつ。カメラに長く映ってスポンサーを喜ばせろ。指示はそれだけかと問うと、監督は肩をすくめた。ほかになにかできるのか?  デュランは自嘲した。なるほど、個性のないおれにはもってこいの仕事ってわけだ。  デュランの逃げに三人が乗った。ゴール前に強いスプリンターのハッキネン。起伏あるステージで力を発揮するパンチャーのフーゲンベルク、そしてチノッシ。デュランはこの三人をよく知っていた。
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