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「そもそも聞いたことなかったけど、あんたその人の頭の上に浮かぶ数字がなんでツキを示しているって知ってんの?」
「そ、それは…友達が運が悪い日といい日の数字が比例してたから…ほかの人もそんな感じだったし……」
「じゃあ、今のあたしはどうなのよ」
「今姉ちゃんは80くらいで結構いい。俺と同じくらい…」
「あたし今でも普通に運が悪いと思ってるよ」
「え?そうなの?」
「そうよ。高校生の時と変わらない。テストの山勘は外れるし、惚れた男は彼女持ちかクズかだし、一番くじ当たらないし!」
…知りたくもない姉の恋愛事情の一端を聞いてしまった。強く生きろ。あと一番くじの話をする辺り、姉弟だな、と妙な感想を抱いた(確か姉の推しは死の外科医的なキャラだったはず)。
しかし話を聞く限り踏んだり蹴ったりではないか。しかも高校時代から変わっていないらしい。なぜツキの数字が上がった?
「なんで高校時代と変わらないくらいのツキのはずなのに、ツキが上がってるのよ?」
ピシッ。ツキの数字に再びひびが入る。
「あたし普通の人より運よかったはずでしょ?なんで大学受験で落ちたのよ?」
「そ、それは…でも結果的に入らなくてよかっただろ?テニスサークルが大変なことに…」
ピシシッ。
「それは後にならなきゃわかんないじゃん。あの時のあたしすごい運が悪かったんだなって思ったんだから!」
ビキッ!
「思うんだけどさ、あんたに見えてるその数字って人のツキを示すっていうよりその人の幸福度を示すもんなんじゃない?」
バキッ!ついに数字の一部が砕けた。僕の数字も『82』の『2』の一部が欠けた。
「あたしは運が悪くても大学落ちても今結構楽しいし、幸せだと思ってる。あんた昔から割となんでもよくできたもんね。人より小器用にこなすというか…。で、ほめられることが多かったから、幸せだったんじゃない?今どうなのよ?あんた…今幸せ?」
バキン!ついに数字がすべて砕けた。と、同時に僕の意識も薄れていく……
***************
落ちる。僕の意識が暗闇の中を落ちていく。数字が上の方に浮かんでいてそこで誰かが僕を見ている。
僕に数字を見せている奴だ。根拠はないけど直感的にそう思った。僕はそいつに向かって叫んだ。
「待ってくれ!何で僕には見えたんだ⁉あれは人のツキを示す数字じゃなかったのか⁉何で急に僕の数字が下がったんだ⁉教えてくれよ‼」
僕は必死に問いかけた。そいつは何も言わなかった。ただ落ちていく僕をジッと見ているだけだった。
「頼む‼答えてくれよ!これからも数字は見えるのか⁉僕は…僕はこれからどうしたらいいんだよ‼?」
答えてほしかった。何もかもがわからなかった。僕の数字は下がったままなのか?何がしたかったのか?疑問は尽きない。
そいつは僕の質問を全部無視していたが、最後の僕の問いかけには答えてくれた。ひどくのんびりした声で。
「どうすればいいって…生きていけばいいんじゃないの?」
「え?」
「いや、別にこの数字が見えなくても生きていけるだろ。数字が下がったままだろうが運が悪かろうが不幸だろうが。普通の人間はそうやって生きてんだぜ?いつまで縋り付くつもりだよ」
そんな理不尽な。僕は泣きそうになった。そっちが見えるようにしたくせに突き放すとはめちゃくちゃだ。
そんな僕にそいつは言う。
「もうこれがなくたって大丈夫だよ。しっかりやれよ」
最後にそいつが笑って手を振った。気がした。
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