ツキ

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 ツキが落ちてきたな。  高校1年生の6月。そろそろ夏本番かという時期、僕、月原翔人は直感的にそう思った。  突然だが、僕には人のツキ、つまりその人の運の良さが見える。ツキはその人の頭の上に数字で表れる。もちろん他の人には見えない。  いつから見えるようになったかは覚えてないが、幼稚園のころからはもうすでに見えていたことは覚えている。そのころの子供は当然ツキが自分にしか見えないということを知らず、先生や友達、親から変な子扱いされてしまった。幸いにして要領が良い僕は、普通の人にはツキが見えない、ということは早々に理解でき、だれにもそのことは言わなかった。おかげで小中高では『イタい子』扱いされる、という悲惨な目にあうことはなかった。また一部の人はこの能力(自分で"能力"とかいうの恥ずかしいけど)を信じているので心の支えになっている、というのもある。  その結果、今僕は普通の高校生として学校生活を送り、満足している。  そうそう、さっき要領が良い方だ、と言ったが、もう一つ他の人より優れているところがある。それはツキの多さだ。僕には自分のツキも見えるのだが、他の人より2~3倍多い。一般的には(自分の中で)、平均して約50程度だが、僕は大体100~150ある。昔からアイスの当たりを良く引くし、ババぬきとか神経衰弱で当てずっぽうで勝つことがよくあった。最近ではテストでよくお世話になっていたりする。  ちなみにツキは日によって変化する。よく『今日は運が悪い』ということを言うが、そういうことなのだ。その変化の度合いは割と個人差はあるが、10~20程度は変化する。  そして話は冒頭に戻るが、僕のツキがこの3か月でどんどん落ちてきている。今までもツキが減ったことはあったが、それでも100を切ることはなかった。それが今では80を切ってしまった。  僕は焦った。なぜこんなにツキが落ちてきているんだ?テストの山勘は当たらないし、コンビニの一番くじも外れてしまう(某三刀流のフィギュアほしかったのに……)。  このままではまずい。何とかしたいと思うのだが、どうしようもない。ツキの戻し方なんてググッても出てくるわけないし……。    そういうわけで僕はもんもんとした日々を送っているのだ。ただいま、の声にも元気がなくなるのも当然、というものだ。そんな僕の様子を心配するような視線にも気づかないのも仕方ないことなのだ。  夕食後、自分の部屋でゲームしていると、コンコンというノックが聞こえてきた。どうぞ、と言うと、入ってきたのは姉、月原加奈だった。姉は今年から大学生になり、実家から大学へ通っていた。まともに話するのは久しぶりな気がする。 「おう、翔人、今いい?」 「…今ゲームしてんだけど」 「お邪魔しまぁす♪」  …姉はこういうところがある。僕の話を無視して缶ジュース片手に乗り込んできた。どこでも姉というのは弟に対して無礼なのか?親しき仲にも礼儀あり、という言葉を知らないのか? 「最近どうよ?元気?」 「まぁね。そっちは?」 「んー高校より暇になったって感じかな。自由感が半端ない」 「ふーん。僕も早くいきたいなぁ……」 「まっ。まだ先でしょ。受験勉強頑張んなよ~?」  そう言って姉はコロコロ笑った。…確かに前よりもっと自由になった気がする。いや、どうでもいいが。  そして少し黙ってから姉は口を開いた。 「…最近なんかちょっと様子が変だったから心配してんのよ。なんかあった?」  僕はとっさに答えられなかった。話すべきかどうか。一応姉は僕の事情を理解している数少ない人間の1人だ。話してもいいが…家族に自分の悩みを聞いてもらうというのは恥ずかしい。  迷っていると 「もしかしてあのこと?人のツキが見えるってやつ」  姉が切り込んできた。…鋭い。なんでこういうときだけ鋭いんだか…。  心配事を見事に指摘された僕はここ最近自分のツキが落ちてきたことを話した。 「なるほどね~。でも懐かしいな~。昔はあたしもよくその能力であたしのツキどんぐらいか見てよ、とか言ってたっけ……」 「だから能力っていうな」 「えーなんで?かっこいいじゃん。『能力』」 「どう考えても中二病だろ…自分で自分を絞め殺したくなるわ……」  ちなみに姉のツキは大体70くらい。普通の人より少しラッキーといった具合だ。今は80と結構上がっている。
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