0人が本棚に入れています
本棚に追加
神のいたずらにしたってこれはひどい。きがつくと僕は見知らぬ女の右目のなかにいた。
僕の仕事はコマーシャルの制作だ。ヒトの目を惹きつけるような斬新なアイディアが必要だった。あらたな視点を得る必要があった。だからって、他人の瞳のなかに入っちゃうのはないだろう。他人に右目を占拠された方もヤだろうし。でもこれ、神のいたずらなんだからしかたない。ならジタバタしたって始まらない。ここはひとつ、事態を楽しんじゃおうとこころに決めた。
――とは言うものの、他人の瞳ぐらしは不便きわまりなかった。
最初はたのしかった。他人の視点でモノを見るのは新鮮で斬新で、考えさせられること多数。いや、正直に白状しよう。じつは女の生活を覗き見できて、エッチな気分になれて大変よろしかった。下着やお風呂や鏡に映ったおしりなどじつにスケベ。ウブな僕には大層刺激が強く、彼女が血の涙を流したと思ったらなんと僕の鼻血だった、てなこともあった。
しかしこのエッチな気分もじきに飽きた。だって、見たいものが見れないんだもん。
好きな本や映画が見れない。考えてみれば情報統制の一種。それがこんなにツライだなんて思いもしなかった。でもそれだけならまだマシだった。なぜって、最悪なのは見たくないものを見せられる点に尽きる。女の念入りなムダ毛処理のようすとか、いったい誰が見たいんだ。最初は爆弾処理見てるみたいでおもしろかったけど……。
最初のコメントを投稿しよう!