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音楽室のお願い事、のおまじないを知っている人間は他にもいるにはいるだろうが、吹奏楽部員はタブーとしてみんな知っていた。花瓶を見つけてくるのも、使ってない五線紙を出してくるのも、吹奏楽部員なら簡単であったはず。
現状、同じクラスで吹奏楽部に入ってるのは三人だけだ。
夏樹自身と理貴。それから。
「……八尾さんを疑ってるのか?そりゃ、俺も少し怪しいとは思ってたけど」
状況的には疑いたくもなるのは確かだし、音楽室の方は夏樹だって疑念を抱いた。
ただ、八尾鞠花は夏樹のことを“好きだ”と言っている。それが嘘だったとしても、憎い相手に告白するメリットは見えない。好きなふりをするだけで、自分にかなり精神的な苦痛を強いるような気がするのだが。
「あくまで可能性は可能性だ。ただ、万に一つ八尾鞠花が犯人だったら……ひょっとすると弟クンのストーカーの件にも関わってるかも?ってことになる。どっちみち要注意だろ」
「八尾さん本人がストーカーってことはないだろ。八尾さんは同じ中学だったわけでもないはずだし、冬樹と関わる機会もないはずだ」
「言っただろ、可能性の話だって。こうなったら、最悪のケースも考えて動いた方が良い」
よいしょ、と理貴は立ち上がった。そして、うーん、と伸びをする。
「俺はそろそろ戻るから、お前はもうちょいここで休んどけ。机の中の人形にお前の名前が書いてあったかどうか、もそれとなーく確認してきてやっから。人形がもし本当に入ってたらその時は……後で一緒に体育倉庫裏の確認だな。まじで呪いがあるとは思わねーけど、気分悪いし、掘り返しておこうぜ」
「……なんか、悪いな、理貴」
「気にするな。なんなら、部活後に家まで護衛してやるよ。命を狙われる友達を守る俺様とか超かっこよくね?」
シュッシュッシュ!とボクシングでもするように拳を構えて振って見せる理貴。にやり、と笑う彼はなかなか頼もしい。
「ヒョロヒョロで小柄なお前より、俺のほうが喧嘩は強い!たぶん!やったことないけど!」
「どっから出てくるんだよその自信!あと、俺はそこまでチビじゃないからなっ!!」
本当に、何から何まで恩に着るしかない。おかげで、だいぶ気分も良くなったのだから。
一人じゃないというのは、本当に大事なことだ。
「……ありがとな」
「おう」
理貴が友達で、本当に良かった。
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