<1・告白。>

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 実際、教室にはまだ多くの女子生徒も残っている。彼のどでかい声が聞こえた数人の女子が、虫けらでも見るような眼で理貴を見ていることに何で気づかないのか。気づかない方が幸せなのかもしれないが。 「お前、喋れば喋るほどモテなくなっていく事実にいい加減気づけよな……」  一応親友として、アドバイスだけはしてやる夏樹である。ぶっちゃけると、理貴は何も不細工ではないし、充分イケメンの範疇に入る顔立ちではあると思う。それでも女子にモテないのは、確実に欲望に忠実すぎる言動のせいだろう。  そもそも、音楽に挑戦したいという真っ当な理由で吹奏楽部に入った自分と違い、彼は“女の子だらけで幸せだから”という理由で吹奏楽部に突撃したという猛者だ。ちゃんと部活動そのものはきちんとやっているし、いつも女のオッパイだのモテたいだのという話ばっかりしているほどモラルがない奴でもないのだが。 「お前が言う通り、美人だから警戒してるんだよ。一目惚れっていうのも、無いとは言わない。でも、一目惚れするにしたって、喋ったこともない相手を今日初めて見て……って普通あるか?俺の顔がどうだったとしても、流石に確率が低すぎるだろうに」 「まあなあ。からかわれてるんじゃ?って疑いたくなるのもわからないではねーけど」  ふむ、と彼は名探偵のように、顎に手を当てて考え込む仕草をする。 「そもそも、五月に転校してくるってのがなかなか珍しくはあるかな。……しかも自己紹介の時言ってたけど、八尾さんって超頭良い学校だって話だろ。なんで、うちの高校みたいな平凡なところに来たのかね」  それは、夏樹も引っかかっているところではあった。自己紹介の時、先生が八尾鞠花の元の高校の名前を言ってみんながざわついたのである。三参道高校(さんさんどうこうこう)。隣の、三参道市の名門高校だ。自分達の学校である“七海学園(ななうみがくえん)”もけしてレベルが低い学校ではないのだが、三参道高校は市の名前ががっつりついている、県内でも有数の進学校である。というか、多分県内でも一番目か二番目くらいに頭が良い学校だったのではなかっただろうか。  そんな学校から、何で七海学園に転校してきたんだろう?というのはみんな疑問に思っていることに違いない。隣の市に引っ越すだけで、学校を変えなくてはいけなかった理由も。それなりに苦労して勉強して合格しては言った進学校であろうに。 「七海学園も進学校だけどさあ、偏差値っていったら三参道には劣るし?何より、私立だから授業料はそれなりにかかるしな」  とすると、と指を一本立てる理貴。 「何か、別の目的があってこの学校に転校してきた……だったりして!」 「別の目的ってなんだよ」
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