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「例えば、お前がこの学校に在籍してるからってのはどうだ?ヒロインが、好きになった人を追いかけて転校するとかラノベならありそうじゃん!」
「はー?」
流石に、ラノベとラブコメ漫画の見すぎである。
「何でそうなるんだよ。だから、俺は彼女とは今日が初対面だって言っただろ。その理屈で言うなら、俺と彼女はどこかで会っていなきゃいかしいじゃないか」
勿論、電車通学している時にいつも同じ電車に乗り合わせていて、そこでひそかに想いを寄せられていた――なんてパターンがないとは言わない。でも、やっぱり彼女とどこかで居合わせたことはないように思うのだ。
自分はともかく、鞠花はどこに行っても目立つタイプだろう。今時見ないような、大和撫子を体現したようなお嬢様系美人。電車で近くにいたら、眼を奪われないとは思えないのだが。
「何か目的があって、わざわざ転校してきたセンはなくもないけど。八尾さんって八尾銀行専務のお嬢様なんだろ、本人が言ってたし。転校って、本人の意思だけでほいほいできるもんか?その、銀行のお偉いさんの親が、“一般庶民の男に惚れたので、そいつがいる学校に転校します。しかもそいつのガッコは、今いる県立の高校よりも偏差値が低い私立です”なんてこと許すと思うか?」
考えれば考えるほど、謎である。無論、本当に外見だけで惚れた可能性を完全に否定できるわけではないが――そうだと確信できるまでは、イエスにしろノーにしろまともな返事などできるはずもないのである。
幸い、本人は返事を焦っているようには見えなかった。もう少し考えてから結論を出しても、機嫌を損ねるようなことはないだろうが。
「うーん、これはミステリーだな。調べてみる必要がありそうだ。ふふふ、三参道高校にも友達はいるから、いろいろ聴いてみるかな!」
理貴は段々、探偵ごっこに乗り気になってきてしまっているらしい。ほどほどにな、と夏樹は一応釘を刺した。あわよくば、自分が彼女と付き合うことができないか狙っているのが見えている。大した理由があるわけではないかもしれないし、逆にとても深刻な理由で転校を決意したのかもしれない。まあり突っつきすぎると、余計な蛇を出すこともある。どうか、慎重に動いて欲しいものだ。
最初は、転校生の美少女が突然告白してくるという、ラブコメさながらの出来事だった。
それがまさか、もっとずっと深刻な事件の始まりになるとは、この時の夏樹は夢にも思っていなかったわけだが。
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