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 吹奏楽部の活動の本番は、夏の吹奏楽コンクールだと言っていい。  それ以外にも文化祭とか、ちょっとした定期演奏会への参加などはあるが、このコンクールでの上位入賞を目指して頑張るのが活動のメインだ。金賞を取っても、必ずしも地区大会を突破できるとは限らないのが難しいところ。何故なら、金賞の中でも“地区大会を突破できる金賞と突破できない金賞”があり、さらに差をつけられてしまうからである。金賞を取ったのに県大会進出できなかったパターンを、通称“ダメ金”と言ったりする。  で、自分達七海学園吹奏楽部といえば。  そもそも、あまりハードではないのんびりとした部活動である。最高記録は銀賞まで。そもそも、県大会進出候補である金賞を取ったことは、近年まったくなかったりする。十年以上前に一度だけ金賞を取って県大会までは行ったことがあるらしいのだが、当然夏樹たちにはまったく縁の無い話なのだった。 「自由曲の方は決まったのに、課題曲がなかなか決まらないってことあるんだなあ」  あの後、理貴と一緒に第一音楽室へ行き、今日の活動のための楽器組立をしてい最中である。夏樹はトロンボーン、理貴はフルートのパートをやっている。夏樹は中学から吹奏楽部だった(そしてトロンボーンだった)ので、高校に入ってからもさほど楽器をやることにハードルはなかったのだが、理貴はそれなりに苦労したようだった。なんせ、彼は女子にモテたいという不純極まりない理由だけで吹奏楽部に入ったキワモノである。  それでも一年生のうちに、ひとしきりフルートは吹けるようになったし、ややナンパなだけで活動そのものはきっちりやっているので問題はないのだが(そして、ちょっとチャラい性格も、持ち前のコミュニケーション能力でわりと見逃されているフシはある。実際、モテるかどうかは別として)。 「中学の時も俺は吹奏楽部だったんだけど、いつも自由曲の方が決めるのに時間かかってたから意外なかんじだ。ゴールデンウィーク明けたのにまだ課題曲決まらないって結構まずいよな」 「そういうこともあるんじゃね?先生と部長とコンマスで見事に意見割れちゃってんだもんよ」  理貴がフルート持ったまま肩をすくめる。楽器が小さい人は良いな、と時々思う夏樹だ。なんせ、持ち歩くのが難しくない。トロンボーンなんて、ユーフォニウムやチューバと比べたら軽いだろと言われるかもしれないがとんでもない。ケースを含めた重さは結構な重量で、いつも持ち運びには相当苦労させられるのだ。  また、家に持って帰って練習するのもひと苦労である。なんせ、トロンボーンは一説によると全部の楽器の中でも特に大きい音が出る楽器だと言われている。夏樹の家はマンションで家族とも同居している。近所の迷惑にならないように練習できるタイミングは、非常に限られてくるのだ。
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