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トロンボーンの場合は、それがスライドの長さで決定される。例えばドの音を出す場合は、第六ポジションという長さになり、腕を結構伸ばした位置になる(なお、夏樹が使っているのはテナーバスなのでコレが少し楽になっており、第一ポジション=一番スライドを手前に引いた形でレバーを引くことでも第六ポジションの音が出せるようになっている)。レの場合はそれがだいぶ短くなって第四ポジション、トロンボーンの傘部分より少しだけ遠い位置、にスライドを伸ばせば音が出るようになっている。
ちなみに、トロンボーンはヘ音記号で譜面が示される楽器である。今言ったド、はヘ音記号のドの場合。五線譜で、上から四つ目の空白に饅頭が載っている位置のドだ。これが一オクターブ上のドだと第三ポジションで音を出すことになる。同じ音でも高さによってポジションが違ったりするのが難しいところ。反面、スライドの長さによって音の微調整が可能なのが他の楽器との違いで、ドの音だけちょっと高めに演奏したいな、なんてことになったらスライドをいつもよりちょっぴり手前に引く、なんてことで調整ができるのだ。反面、演奏する時に100パーセント同じ位置に手を持ってくることは不可能なので、微妙に音が変わってしまうという問題点もあるのだが。
――後ろのパイプがなんか硬いな。ちょっとクリーム大目に塗っておくか。
スライドを取り外して、パイプに少し厚めに調整用のクリームを塗り込む。チューニングの時に動かなくなったら周りに迷惑をかけてしまう。
「……えっと何の話だっけ。ああ、そうだ課題曲」
手を動かしながら、話を続ける夏樹。
「今度の五つの課題曲の中でさ、二番目の曲が他の学校でも一番人気なんだよね。華やかだし、いかにもパレードってかんじでテンション上がる曲だろ。起伏もあるし」
「うん。俺もあの曲いいなーって思ったし、コンマスは推してるよな?」
「でも、他の学校にも人気ってことは、他の学校も同じ曲を選んでくる可能性が高いっつーことなんだよ。……違う練習曲のクオリティと、同じ曲のクオリティ。比べられやすいのって、どっちだよ。後者だろ」
多数の学校がやってくる人気曲は、とにかく学校同士のクオリティの差が浮き彫りになりがちである。良くも悪くも比べられやすい。自由曲のポイントもあるとはいえ、よっぽど自分達の実力に自信があるわけでないのなら、人気になりそうな曲を選ぶのは避けるべきなのだ。
実際、こっそりあっちこっちに偵察に行ったらしい部長は、二番目の課題曲を練習している学校が多数だったと話してきた。いくら吹奏楽部の場合は、校舎の外で聞き耳を立てるだけで偵察になるとはいえ――十個以上もの学校を回って情報を調べてきた部長の執念は恐るべしといったところである。
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