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<1・告白。>
その時、萬屋夏樹はつい思った。自分、いつからラノベの主人公になったんだっけ、と。
「萬屋夏樹君、ですよね。私、今日から二組に転校してきた、八尾鞠花と申します」
長いサラサラとした黒髪。育ちの良さが滲み出る、上品な喋り方。ドラマや映画から飛び出してきたかのような美少女は、にっこりと微笑んで頭を下げた。
きっと、多くの男はこの笑顔にくらっと来るのだろう。高値の花、という言葉がまさに相応しいに違いない。それこそ、社交界でドレスでも着て微笑んでいたら、それだけで絵になりそうな。
問題は。
「私、萬屋君のことが好きです。付き合ってください」
「……は?」
ここが学校の廊下であるということ。
彼女が今日転校してきたばかりの生徒であるということ。
そして、夏樹と鞠花が、たった今初めて言葉を交わしたということだ。
――え、ええええ……?
これがラノベの世界で、夏樹がそのラブコメ作品の主人公ならばあり得た展開だろう。でも実際、そういうわけではないわけで。
――な、なんで?
美少女に告白されたということよりも、戸惑いが勝るのは当然のことなのだった。
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