鬼嫁の居ぬ間にセールス

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鬼嫁の居ぬ間にセールス

「ごめん、その日は出勤だからお茶とお茶菓子だけ用意しておくね」 牧野美里は夫の牧野卓也に謝る。 「仕方ないよ。急に次の休みに従姉妹が遊びに来るって言うんだから」 卓也の従姉妹の渡辺友梨香が、夫と子供を連れて遊びに来るそうだ。夫側の親戚だから気を遣う。美里は仕事があってラッキーくらいに考えていた。卓也も特別休みの予定を組んでいなかったので、たまには親戚と語らうのもいいな程度に軽く考えていた。 美里がスーパーのパートに行っている間に、卓也は窮地に立たされていた。 「卓也さん、今は円安で円の価値が相対的に落ちています。美里さんのパート先のスーパーでも生活必需品が値上がりしていませんか?」 従姉妹の渡辺友梨香は息子の誠哉を夫に預けて、日本経済の行く末を熱く語る。 「そうですね、確かに…」 卓也の手元に置かれたパンフレットには、友梨香が勤める会社の理念や素晴らしさが描かれている。 「私達は何か商品を売ろうとしているのではなく、皆さんの人生のお役に立ちたいんです」 友梨香の情熱に押されて、卓也は個人情報をつい喋ってしまう。そして出来上がったのは…。 『人生プラン想像図』 表やグラフを見たとき、卓也は既視感があった。これは保険の営業…。気がついたときには遅かった。ハンディプリンターで友梨香が人生プラン図を印刷物し、保険の説明をし始める。 (鬼嫁!いつものように鬼でいいから残業なしで帰ってきてくれ!頼む!) 卓也の心の声が届いたかのように、友梨香は一時間ほどで引き下がった。飽きてしまった息子とスマホゲームに興じていた父親も、一緒に去っていく。 「子供がうるさくして、すみせん…」 友梨香の夫は小学校一年生の息子の手を引いて、平謝りする。 「いや、土日も友梨香さんの仕事に付き合うなんて仲が良いんですね」 「まあ、友梨香がいないと飯もろくに作れないんで、仕方なく」 友梨香の夫は少し不機嫌だった。彼も付き合わされて面倒臭いということか。 従姉妹の友梨香達とほぼ入れ違いで、鬼嫁、いや美里がパートから帰ってきた。
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