ぼくのすきなひと

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「じゃあ、ぼくからの好き、だよ。どうぞ受け取って」  水島家の玄関に残っているのは現在、蓮と愁の二人だけ。  チャンスだとばかりに、蓮は惜しげもなくごりっと硬くなっている熱いものを愁の腕に押しつけた。  バカだから「好き」をどう愁に伝えればいいか一生懸命に考えた結果が、これだ。直球勝負は相手の心を動かすとクラスのモテる女子が話していたから、蓮も真に受け実行してみたのである。  いかに自分が愁を好きかということを全身で、いや下腹部から伝えるために。 「……おい、いい加減にしろよ」  当然のことながら、全力で蓮の腕が振り払われる。  計算のうちだったけれど、少し淋しい。  華奢で小柄な見た目とは裏腹に、愁は柔道黒帯所持者だ。  体格では二十センチ背の高い蓮のほうが縦も横も勝っているが、愁が本気をだしたらいとも簡単に投げ飛ばされるだろう。  そういう強いところも、蓮はすごく好きだのだが。 「でーもー、愁兄ちゃんのことが大好きなんだもーん! どうしたらわかってくれるの?」 「十八歳になってまで子どもみたいに『だもーん』、じゃねーよ。だいたいそんな物騒なものを押しつけてくるような男に、好きとか言われ続ける俺の気持ちを考えたことねえのかよ」 「ぼくだって、向こう見ずでやってるわけじゃないよ! 愁兄ちゃんだって、きっとぼくのことが好きだって……確信があるから、そうしてるわけで」  背後で叫ぶ蓮を無視し、すたすたと愁は玄関を出て行ってしまう。  だけど蓮は知っている。  玄関を出たあと愁がカギを閉めるために、いつも気まずそうな表情を作って蓮を待っているのを。  
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