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「愁兄ちゃんの意地悪」
膨らむ下腹部とともに頬も最大限膨らませながら外へ出ると、案の定、少しだけ目線をそらしながら愁はドアの前で待っていた。
ほらね。
やっぱりそうだ。
完全には蓮を振り切れない、中途半端な優しさを愁は持っている。
だからつけ込むのだ。
「だってさ、蓮が外に出ないとウチの鍵、閉められないし」
「そうだけど、ぼくの熱も納めてくれないと──閉められないから」
もじもじと愁を見上げると、蓮の全身を下から上へ舐めるように眺め、ある一点のところで止まると鼻で笑った。
そう、隠せない男性事情だ。
「俺とお前んちは違う鍵だろ?」
「家の話じゃないよ。ぼくの、お」
鍵を片手に持つ愁は、腕を組みながら大きなため息をひとつこぼす。
「バカか? だったら尚更、俺には関係ないだろう。だいたいなんでお前、毎朝俺の出勤時間に合わせて来るんだよ?」
「好きだから!」
「だからそれは、隣近所のお兄さんとしてだろ?」
「違う」
「違くない。違くないから、朝から愁兄ちゃんで勃っ」
言いかけた口を素早く両手で塞がれる。
「……っ! ぅ! ン!」
もがもがと抵抗する蓮の背後に見えるドアノブを引くと、問答無用とばかりに愁は巨体をぶんと玄関へ放り投げた。
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