ぼくのすきなひと

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「でも、最近はそうでもないんじゃない?」 「なんで?」 「だってほら、澪ちゃん先生と水島ちゃんってつき合ってるんでしょ?」 「ただ同じ大学のサークルの先輩と後輩っていうだけじゃないの」 「そんなことないでしょ。二人が一緒にいるときの親密さを見れば、なんとなくわかるじゃーん」  恋だ愛だと敏感な年頃の高校生は、独身の男女二人がそれっぽくさえ見えれば、本人のあずかり知らぬところで勝手にその縁を結びつけようとする。  ばかばかしい。  不愉快だとばかりに蓮は集団からひとり離れると、教室とは別のルートへ足を向けた。  すると肩あたりに衝撃が走る。  急に方向転換をしたせいで、前をよく見ていなかったものがぶつかったのだろう。  自然と舌打ちをしながら、ぶつかった相手を確認する。 「……愁兄、」  言いかけたところで愁が、ごほんと大きく咳ばらいをした。 「、だろ?」  声を潜めながら注意してくる愁は、まるで秘密を共有する共犯者のようだ。   単純だが、蓮は優越感を覚える。 「金谷(かなや)。お前デカいし、力があり余ってそうだからホームルーム始まる前にちょっと手伝え」  周囲に聴こえるように、わざと愁は教師然とした口調で喋った。 「はい、わかりました」  だから蓮もそれに倣い、踵を返した線の細い後ろ姿に素直に着いていく。  いいように使われてもいいのだ。  大好きな愁だから。    
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