ぼくのすきなひと

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 職員室のある二階へ上がったから、蓮はてっきり本当に運ぶものがあるのかと思っていた。  いや、多分あったんだろう。 「あら、金谷くん。水島の手伝いかしら?」  階下から鼻につく甘ったるい声が聴こえてくる。振り返らなくとも、蓮にはこの声が誰なのかわかってしまう。 「藤ヶ谷先生、おはようございます」  蓮を通り越して、愁が先輩教師へあいさつした。  先ほどクラスメイトのヤツらが愁との仲を疑っていた、例の化学教師だ。  顔が可愛いと言っていたが、蓮からするとどこが、と思う。  とにかく存在自体が気に入らない。 「だいたい水島は男なんだから、力仕事を金谷くんに手伝ってもらわなくてもひとりで平気でしょう? むしろ私のクラスの荷物を運んでほしいくらいだわ」  膝が隠れるくらいのタイトスカートをはいているにも関わらず、色香が滲み出る藤ヶ谷は愁ではなく、蓮の背に手を添えてきた。  気色が悪くて背筋がぞくりと震え、過呼吸寸前のように口がぱくぱくする。  慌てて愁が蓮の隣りまで降りてきて、触れていた藤ヶ谷の手を払いのける。 「の金谷じゃなくても、藤ヶ谷先生がお願いしたら喜んで引き受けてくれる生徒はたくさんいらっしゃるんじゃないですか?」 「仮にそうだとしても、金谷くんほどの大きな男子生徒は私のクラスにはいないもの」 「特定の生徒を贔屓すると、誤解されますよ」  行き交う生徒たちに配慮して、藤ヶ谷の耳元で愁が冷たく言い放つ。  階段を昇り降りする生徒たちが、「やっぱりね」など言いながら通り過ぎていく。  傍から見たらこの状況の教師二人は、噂通り親密な関係に見えているに違いない。
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