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新宿区歌舞伎町メンズコンカフェプリンス診療所の少女達
「あれ?麻里たんからだ。もしもし、も~、連絡つかないから先入っちゃったよ。君の担当のキリヤ先生待たせんな~!てか、今どこ~?」
メンズコンカフェ「プリンス診療所」で担当のるりと先生に、先程から8万もするスパークリングワインをねだられていた凜は、約束の時間に遅れている麻里からの電話に、いそいそと出る。二人で割れば何とか払えると踏んでいるのだろう。
週末の9時過ぎ、コンカフェの最も込み合う時間が果たしていつなのか、由香にはわからなかったが、明らかに店内の客はまばらだった。
そのせいか、来た時からるりとの色恋トークはいつも以上に凄まじく
「かわいいね」
「だっこしようか?」
「連れて帰っちゃいたい」
等々、散々凜をうっとりいい気分にさせたところで、高額ドリンクを執拗にねだって来た。
由香の隣に着いたキャストは早々に財布は凜が握っていると感じたようで、さほど攻勢は掛けて来なかったが、それでも一杯2000円のカクテルを頼んで来る。
「え?もしもし?うん…何それ?マジ?うんうん…、はあ~?!ありえんて!」
暫くそんなやり取りが続き、凜は電話を切ると
「麻里たん今日来れないって…なんか彼氏がキャバ嬢と同伴でキャバクラ入ってったの見ちゃったらしくって…凄いショック受けて泣いちゃってて…かなりヘラってた…麻里たんそういうの絶対許せないタイプだから…」
と、一見傷ついた友人を思いやる神妙な面持ちで話した。しかし、本当のところは一人で8万の酒を入れる事の難しさに悩んでいるに違いない事に由香は気づいている。
そもそも自分たちはコンカフェで推しに散々貢いでおきながら、彼氏が飲み屋に行くとショックというのでは、道理が通らない。
一体どういう思考回路をしているのかと、半ば呆れていると、白衣姿に首には聴診器、青い髪のるりとが凜の耳に囁いていた。
「お願い、掛けでいいからさ…」
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