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「…そうなんだけどねえ…まさか卒業イベントがあんなに盛り上がるとは…説得してずらしてもらえば良かった…とか考えちゃうよ」
みつるにライターを借りると、海も自分のタバコを取り出し、火をつける。
「やっぱりいいよねえ、デュポン。俺も買おうかなあ」
「俺がホスト始めたばっかの時だから…もう20年近く前か。下着会社の社長やってたお客さんがくれたんだよなあ…ホストやるなら一流を持て…って。昔はこういう本物を知ってるお客さんが、俺達を本当の意味で育てて、応援してくれたもんだよ」
「そうだねえ…そもそも、本当にお金がある人が来てたとこあるよね」
近年ホストクラブに来る女性は、低年齢化、更にホストを応援するという名目で、風俗やアダルトな仕事を始め、精神が不安定になってゆき、そこで更にメンケア、いわゆるメンタルケアをされるためにホストに依存してゆく…という悪循環が問題だとみつるはかねてより考えていた。
そうなった女性は精神安定の名のもと、市販薬や、処方薬のOD(オーバードラッグ)や、最悪薬物に手を染めることも少なくない。
そして、中には最後は自分をそこまで堕としたホストに復讐をする者も出て来る。
みつるはかつて、同性の恋人を客に殺された過去があり、その内在する狂気の恐ろしさを誰よりも知っていた。
客は無償で奉仕しに来ている訳でも応援している訳でもない。
見返りはきっちり期待されている。それは時として自分の、そして大切な人の命になりかねない。
それを防ぐ方法はただ一つ、その客に適正な価格で「接客」をすることだとみつるはかねてより従業員に言い聞かせている。
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