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ホスト達から謝辞の言葉を受け、杏子も「お互い飛ばれないように頑張りましょう」と告げて、店内を出て代表の一条と事務所に入った。
「本当にありがとうございました。これ、少ないですが…」
少ないと言っているが、手に持った封筒の感触から、杏子は10万円と見た。
さすが大手。
「僕が掛けの店舗ルールを統一してなかったから、かなりルーズになっていたんだって、今日実感しました…まさか保健証預かってる奴までいるとは…」
整形ではあるが、栗色の巻き毛が似合うほっそりした面立ちの一条が、物憂げに言った。
「いえいえ、多いですよ、あんまり掛けのルール厳密にしてない店舗さんて。それに一条さん、まだ25歳なんですよね?それで春鳥グループの店舗の代表なんて凄いですよ。広瀬さん褒めてましたよ。」
「…そんな、自分がプレイヤ―だけの時は、良かったんですけど…代表になってみると全然苦労が違いますよね…でも、今日は本当に杏子さんのおかげで勉強になりました。良かったら、遊んで行かれます?気になったホストいたら付けますよ。てゆうか、うちの連中、杏子さんみたいな美人が講師でさっきから普段見ない真剣さで笑っちゃいましたよ。…あ、勿論お支払いは気にしないでください」
「え~…嬉しいんですが、この後予定がありまして…」
「あ、もしかして他に通ってる店あるとか?」
「あ、今日は妹たちと会うんです。…でも普段は、ギルティさんに…」
「秀吉さんの!すごいなあ、さすが、行く店のレベルが高い…」
ーはい、いつもクイックで1万円ですが
「担当は?」
「あ、えっと…NPの日本海さんを…」
「うわ~、また大物ですね、天然イケメンで大人だし、何てゆうか…色っぽいんですよね。でも、あの人もう新規の姫取りませんもんね。そうか~、杏子さん役職担か~」
「え、えへへ…ま、まあ、そんな…いいじゃないですか」
仕事中だが、海の話になるとついつい気持ちの悪い笑顔になっていた。
じゃあ、お引きとめしちゃ悪いですね、と送りに出た一条との別れ際、杏子はふと思い出し、バッグから小さな包みを取り出して見せた。
「あの、一条さん…これご存じですか…?」
その手には抽象花の描かれた、小さな包みが置かれていた。
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