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内緒の終わり
「来たよ」
私は彼と気軽に話せるようになっていた。
「おー来たね」
ほとんどは彼が音楽室で待っていて、私が後から再び音楽室に戻るという流れだった。
授業が終わり、全員が去るのを二人で待つのは困難に近い。
私達はお互いの関係を曖昧なままにしていた。
もちろんお互い分かっている。
お互いの想いを。
ただ、言葉にしないだけ。
だから、カヨちゃんというクラスメイトが音楽室に入ってきた瞬間、ついにその時が来たのだと思った。
焦りもしたし、不安にもなった。
彼の様子を伺いもした。
「あれ?二人?」
カヨちゃんはそこまで言うと、悟ったように急に慌てだし、
「忘れ物したの。えーっと、あ!あったあった。スマホ。じゃあ、またね」
と、机の中からスマホを取り出し、一人でしゃべって出て行った。
見つけたのがカヨちゃんというのだけが問題ではない気もするけれど、カヨちゃんだったのは、やっぱり問題だった。
二人の関係が明るみになる時が、もう目の前まで来ている。
私は動揺しているのもあって、彼の感情の動きを読み取る事ができなかった。
きっと私は、動揺が思い切り顔に出ていたと思う。
彼は私の感情の動きを読み取っただろうか。
「もう、コソコソするのやめる?音楽室も楽しいけど、違う所も行ってみたいかも」
彼が言った。
彼は人気者で、優しくて、面白い。
私が、そんな人に恋をしてしまった。
何と答えよう。
気持ちが揺らぐ。
彼は続けた。
「そもそも音楽室で会おうって言ったのは、ピアノがあるからっていう理由だけだし。別に場所はどこでも良かったっていうか」
内緒の時間、内緒の関係というのが今の二人の要素で、その内緒を愛しくも思っていた。
新しい段階へと向かわなければならない。
何も言わない私に、彼は戸惑っている。
いざとなると、怖い。
想いを口にするのは、初めてだ。
「好き」
心に溢れていたその言葉は、音となり、彼へと届く。
私は全身が熱くなるのを感じ、彼の冷たい指先と、二人の重なる手を思い出した。
その時二人の耳に響いていた和音も。
「情けないな。先に言われるなんて」
彼が私に近づく。
「好きだよ。付き合おう」
今までで一番近い距離。
恋したあの日よりも近い距離。
彼は私の頬にキスをした。
一生忘れる事のできない、そんなキスだった。
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