落ちてきた数字

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 ニュースキャスターの態度にも、画面の向こう側の彼らにも、僕は何も思わなかった。騒ぎたい奴は騒げばいいし、逃げたい奴は逃げればいい。これからどんなことが起こるのか、誰にも分からないのだ。自分が何をするのかは、自分で決めればいい。  そのとき、ニュースキャスターの声が一段と高くなり、「研究チームが大規模な太陽フレアを観測した」と早口にニュース速報を伝え出した。  いよいよだ。僕はタモの柄を握り直し、意識を窓の方へと集中させる。「これから数時間後に起こる不測の事態に備えてください」と繰り返し伝えるニュースキャスターの騒がしい声が、不意にプツリと途絶えた。視線をチラリとテレビへ向けると、先ほどまで画面に映し出されていたキャスターの姿はなく、画面が黒々とした光を反射しているだけだった。  これは太陽フレアの影響なのか。静かになった部屋で僕は一人、緊張を全身に纏っていた。  きつく握ったタモの柄が、汗で滑る。手の汗をズボンに擦り付けて拭ったちょうどその時、ざわざわざわという音が耳に届いた。そして、その音をかき消そうとするような悲鳴が辺りに響く。  思わず僕は窓から身を乗り出し、空を見上げた。そして、小さく息を呑んだ。
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