青の落下水・ドロップス

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 ミキの耳の中の水を思い出す。  体温で温められた水が、僕の太腿にあふれ出してきた。  塩素の匂い。後ろめたい生温かさ。  顔を上げる。  教卓の前にはミキの後頭部。  僕は自分の視力の良さを恨む。  ミキの耳から目が逸らせない。日焼けした首すじと耳の後ろにわずかに残された白い肌。  鮮烈なコントラスト。  左腿にじわりと広がる湿り気。  つま先までしびれる。  我慢できずに吐息が漏れる。  自分が、そそうでもしてしまったのではないかと焦る。  でも違う。忘れられないだけだ。  布地越しに触れていたミキの耳と、染み出してきた水と。
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