青の落下水・ドロップス

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 外階段の定位置。  僕の数段下に、ミキが腰を降ろした。  目眩と吐き気が続いている。  ミキの顔を見たとたん、冷や汗は引いていった。代わりに顔が火照り出す。 「俺も抜けて来ちゃった」  ミキは悪びれず僕の左膝に体重を預けた。 「親は怒るかなあ。模試代ほとんど無駄にしちゃった。まあ、解いても解かなくても、結果は同じような気がするし」  言葉を返したいのに、一度絞まった喉は、なかなか開いてくれない。   「スガちゃんにあめ玉もらいたくて、テスト抜けてきた」  あーん、と首を仰け反らせ、ミキは目を閉じる。  ふいに喉が開いた。  「あめ玉?」  震えもかすれもしない声が出た。 「ん」  ミキが口を開けてあめ玉をねだる。  僕はミキの頭を左太腿にのせたまま、かばんに手を入れてあめ玉のパッケージを探り出す。 「スガちゃん? 雨が落ちてきた。あめじゃなくて」  ふふっと、僕の喉が開く。 「あ! 今のシャレじゃなくてほんとにさー」  言いながら、ミキが目を見開く。  仰向いて僕の太腿に頭をのせたままのミキ。  その顔に新たに水滴が落ちていく。  日に焼けた頬に。鼻の頭に。唇の脇に。ぽたりと落ちて滲む水。 「水が無いところでは、やっていけないって、言ってただろ」  自分でも驚くほど滑らかな僕の舌。  ミキの手が伸びてくる。僕の頬を伝う涙を指で拭う。
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