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覚えのある匂いが鼻先をかすめた。
夜目にも分かる。指先まで良く日に焼けた手。
その手指が僕のまき散らしたあめ玉を拾い上げた。
「これで全部?」
柴犬を思わせる黒目がちな瞳とまとまりの悪そうなほわりとした髪。
日に焼けた頬と薄い唇。
ほとほと、と音を立ててあめ玉が袋に戻る。
ごめん、と、ありがとう、を口の中でもそもそと返す。
「俺。西一中の幹」
ミキという女子っぽい響き。人なつっこく細められた目。
「あめ玉、俺にも一個くれる?」
それが、ほんとうのクラッシュ。
ミキは僕の三段くらい下に立っていたのに、まるで降ってくるような心持ち。
その衝突の瞬間、やはり、覚えのある匂いが立ち上った。
「塩素の匂いだ」
口に出してしまってから、慌てた。
初対面の相手に対し失礼だったのではないかと。
ほら、また、空気読めないとか。
「あ。わかる?」
ミキはくしゃっと笑った。
ミキは足元に置いていたジュースのパックを拾い上げ、ストローを刺した。
ぷつ、とわずかな抵抗を見せただけでストローは深く、刺さった。
「俺さ。水泳部」
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