青の落下水・ドロップス

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「俺にもあめ玉ちょうだい」  距離が近い奴なんだと思う。厚かましさが愛嬌になる。  ミキは僕の、いくつか下の段に座っている。  休み時間の外階段。僕らの定位置になってしまった。  ミキは僕の左膝に頭を預け、首を仰け反らせて、こちらを見上げた。  誘蛾灯が濡らしたように魅せるミキの喉仏。  僕はのど飴をパッケージから取り出す。  エアコンのせいで喉もいがらっぽくなるのだ。  虚弱体質で勉強しか取り柄がない。そう考えると、自分でも自分が嫌になる。 「あーん」  ミキは首を仰け反らせ、目を閉じた。  ぽっかりと開いてあめ玉をねだる口。その先のしっとりとした粘膜。  あーん、って。それは、あげるほうが言うんじゃないのかな。  ぽとりと口の中にあめ玉を落とす。  喉の奥に入ってしまわないように、舌先に。  指先がわずかにミキの下唇に触れる。  しなる首すじ。背骨。ミキはどんなふうに泳ぐのだろう。  塩素の匂いがかすめる。 「塾なんて眠くなるばっかり。俺、地上生活には向いてないなー」  良く日に焼けて良く笑う、がさつな動作の人魚。  触れた肩はがっしりしているのに、腰と足首はほっそりとしなやかだ。  いつも甘いジュースを飲んでいる。ジュースと菓子パン。  菓子パンをさっさと食べ終えて、僕の手からあめ玉をもらう。 「毎日どのくらい泳ぐの?」 「陸トレもあるけど、夏休みは5000くらいは泳ぎたい。もうすぐ大会だし。それ終わったら引退だし」  その練習量がどれくらいすごいのか分からないけれど、日中泳ぎまくったら、眠くなりそうだ。 「もうちょっと栄養のあるものを摂った方がいいんじゃない?」  僕の言葉に、ミキはきょとんとした顔をした。 「たくさん泳ぐなら、菓子パンじゃなくて」  ぶわっと惜しげも無く笑顔が花開く。 「スガちゃん。やっさしー。オカンみたい」
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