青の落下水・ドロップス

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「水の中ってどんな気持ち?」  八月に入った。  僕は尋ねる。僕の知らない世界のことを。 「きもちいーよ」  ミキは僕の数段下に座って僕の左膝に体重を預ける。 「スガちゃんって面白いよね。どんな感じ、じゃなくて、どんな気持ちって」  国語の模試のことを思い出して僕は憂鬱になる。僕は、日本語の使い方が間違っているんだろうか。 「身体のまわりに水があるのが好きなんだ。泳ぎすぎて、どこにいるんだか忘れちゃうような瞬間があってさ。中学入ったくらいから、視力落ちちゃって。眼鏡が必要なほどじゃないけど。水の中だと余計ぼやーっとしてキレイなんだ」  ミキは目を閉じて首を仰け反らす。喉仏が誘うように動く。 「水を切り裂くって言い方あるじゃん。そうじゃなくてさ、俺、水は味方でいてほしい」  うわ、俺ポエマーだなあ、とミキは照れた。  翌日、僕は、ミキの口の中にブルーベリーのあめ玉を落としてあげた。 「目に効くって」  僕はガリ勉のくせに目が良くて、まだまだがんばりが足りないと、身体に急かされるような気がしてしまう。 「うわ。やっさしー。スガちゃん記憶力良いよね。俺の目のこと覚えてくれてんだ」
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