青の落下水・ドロップス

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「出そう」  じわりと僕の左腿に生温かいものが広がった。  立ち上る塩素の匂い。  ミキの耳を侵していた水が、彼が体勢を変えた拍子に出てきたのだ。  ミキの手が僕の太腿をまさぐる。僕の、紺色のチノパンツの布地越し。 「うわ。結構、入ってたんだなー。水」  濡らしちゃってごめん、とミキが頭をかく。  ミキは立ち上がって首を振った。 「わー。すげー。すっきりした」  はしゃぐミキのTシャツの裾をまた引く。  階段から落ちられたら困る。  右手で彼のTシャツを、左手で湿った自分のチノパンツの布を握る。 「俺、一応、水泳部の部長なんだ。耳に水が入ったなんて、かっこ悪くて言えなくてさ」  スガちゃんがいて良かった、と笑うミキの顔半分が、階段下からの明かりに輝く。  熱帯夜が満ちる。  しっとりとした水は、冷えるでもなく蒸発するでもなく、僕の太腿の上に留まる。
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