青の落下水・ドロップス

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 模試の日は、通常より早い時間に塾が始まる。  普段とは違う、塾で一番大きな講義室に中学三年生全員が集められる。  ミキは英語のテスト中に姿を見せず、数学の途中で現れた。  講義室の電灯のもとで改めてミキを見た。  教卓の近くの席しか空いていない。先生に遅刻を謝り、ミキは最前列に着席した。  おどけた仕草。こんがりと日に焼けた首すじ。  模試は三教科、最後は国語だ。  僕は休み時間に外階段に行かなかった。  ミキは同じ中学校の友達に囲まれていた。  僕とは階層が違うタイプの、ミキのように笑顔が眩しいタイプの男子や女子。  住む世界が違う生き物たち。  僕はトイレに行って息を整えた。  鏡の中の、自分の生っ白い顔から目を逸らす。僕の顔は、陰気で気難しいハスキー犬のようだ。  国語に集中しなければならない。  いま、特進クラスから脱落したら母親は嘆くだろう。  中学受験に失敗しているのだ。  次は無い。
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