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3 勇者、出稼ぎに出される
我が家の家計はとっくに破綻している。十五歳になったいま、それはひしひしとわかる。
なぜなら最近うちのスープに食べちゃいけないキノコだとかが入り出したからだ。ぼくは家計の足しにと半ば強制的に魔物のいる森に入らされて、おかげで命がけでいろいろなことを学んだ。いまこのスープに入っているキノコもまた、そうしたことから学んだものだ。森であまりの空腹に負け、こいつをひとかじりしたときに起きたことは忘れない。よく生きていたと自分でも感心する。それが何でこんな大量にスープの中に入っているんだ?
「あのねママ。このスープに入っているキノコは、ふつう食べちゃいけないやつなんじゃないかな?」
「な、なに言ってんのマティム。そんなものをスープに入れるおバカさんなんていないわ」
「だってこれ毒キノコだよ?村人はハンターキラーって呼んでいるけど」
「だ、出汁よ。いい出汁が出るのよね」
そんなことを言われても、母のスープ皿にキノコなんか少しも入ってないのを見ると、これはなにかの嫌がらせかと思うしかないじゃないか。
「あんたぼくを殺そうとしてんのか?」
「ふん、あんたがこんなもの食べたって死なないことは知っているわ。だからうちがいまどういう状況かわかってもらうためこんなものを作ったのよ。ちょっとおいしかったけどね」
狂ってる。貧乏がママを狂わせている。まあ確かに勇者のぼくは毒に耐性がある。だがそれは自然に身につけた、というか身につけざるを得なかったからだ。森で猛毒の魔獣に噛まれ、巨大な毒蛇に噛まれ、毒蜘蛛に噛まれ、毒サソリに刺され、毒霧の中に迷い込み、毒草を食べ、毒虫の巣に落っこちた。おかげで耐性はついたけど、われながらよく生きていたもんだといま思う。
「状況はわかったけど、ぼくにどうしろって言うんだ?」
「だからあんたがパパのかわりに働くの」
「はあ?働くって…ぼくまだ十五になったばかりだよ?就職なんて無理だよ。児童福祉法違反だよ」
「何言ってんのかわからないけど、村じゃもうみんなとっくに働いている年じゃないか。そんな立派な体して働かないなんておかしいわよ」
まあたしかにそうだ。鍛冶屋の息子のデーテは十歳のころから働いている。ほかのガキだってみんなそうだ。ここには学校がない。だからそうするしかないんだ。でもぼくは働けない。勇者だからだ。勇者は雇えない。そういう決まりがあるのだ。国王以外で勇者を雇っているなんて知られたら、重い罰を受けるのだ。
いや普通の勇者だったらそれでもいい。いくらでも魔獣や魔物を倒して生活できるから。でもぼくは落ちこぼれだ。いままで一度も魔物を倒したことなんてない。倒されそうになったのは数え切れないけどね。ああ情けない。
「というわけでぼくの能力と社会的状況がぼくの就労を拒んでいるんだけど」
「わけわからんこと言うな。いい、よくお聞き。ヨゼフ爺さん知っているわね?あの爺さんの知り合いでゴムレムというやつが鉱山で働く人間を探しているのよね」
鉱山だって?そんなの罪人か奴隷しか従事しない過酷な労働環境で、落盤だの毒ガスだの頻繁に起こる、すぐにみんな死んでしまうような悪劣な場所だ。
「そんな無茶な。そんなとこ行ったらぼくすぐに死んじゃうよ!」
「あんたなら大丈夫…たぶん。それにもうお金、貰っちゃったし」
「なんですとー!」
こうしてぼくは勇者としてではなく、出稼ぎの労働者としてこの村を出ることになった。いや、これどう見ても売られたようにしか思えないんですけど!
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