45  勇者は死にました

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45  勇者は死にました

ワールド・コラープスは反則級の技だ。ゲーム会社の嫌がらせとしか思えない設定だ。勇者と言えどもまともに受けたら死んじゃう設定。しかし避けたら世界が終わる。どう攻略すればいいのかってこと。クリアした者がいないっていう伝説級のクソゲーのムリゲー。だけどぼくはクリアした。中三のときだ。それ以来忘れてた。だけどあるとき、妹がそれをクリアした。妹が中三のとき…ぼくらが死ぬ、そうその前日だった。 そいつを受けた。いや、まともに受けたら死んじゃう。でも勇者は細胞一個あれば再生できる。ぼくは受けながらそれを永遠繰り返した。ワールド・コラープスのエネルギーが尽きるまでね。あーその時間は永遠だ。まあ実際には二時間くらいだけどね。その間ずっとコントローラーを操作してなきゃならない。それもずっと同じコンボの連打で。これは辛い。ミスったらそこで終わり。ああ、今まさにその状態。 「どうして…どうしてあんたがその技知ってんのよ!どうしてその技…あんたが使えんの…よ…。それはあたしと…お兄ちゃんだけしかできない…技なの…に…」 魔王は泣き崩れていた。アホやな―。いま攻撃すれば簡単にぼくを倒せるのに。あ、そろそろエネルギーがなくなってきたようだ。いやー、まいったなー。リアルでこれやるとは思わなかった。 「あー疲れた」 「なんでよ…」 「えーと?」 「なんで死なないのよ。なんでその技知ってんのよ」 「なんでかなー」 「バカにしないでよ。わかったわよ。さっさと殺しなさいよ。あんたならできるんでしょ?」 「そりゃまあそうだけど…」 魔王は涙でぐしゃぐしゃになった顔をぼくに向けた。 「あんた勇者なんでしょ?魔王を倒しに来たんでしょ!」 「いや、べつにぼくは魔王を倒しに来たなんてことはないんだけど」 「な、なんでよ!」 「いや、なんでと言われても」 「だって勇者って魔王を倒すために存在するのよ?魔王倒してなんぼなのよ?」 「そういう設定あるのは知ってるけど、ぼくは落ちこぼれだし、誰にもそんな期待されてないし」 「だからって!」 「だから魔王を倒さなくっていいんです」 「はあ?」 これにはエルガも驚いた。魔王を倒さなくてもいい?いや空耳か? 「あんたなに言ってんのかわかってんの?みんなそいつに殺されたんだよ?どんだけ人が死んだか知ってんの?」 エルガは怒鳴って言った。冗談じゃない。いま魔王を殺さないでどうする! 「いやそれぼくに関係あるの?」 「いやいやいや、ちがうでしょ?そこは人間としてでしょ?そういう考えはありえないのよ?」 人間としてありえない?そんなのおかしいよ。 「じゃあエルガはどうして魔王を殺そうとするの?」 「そりゃ魔王は悪いやつだからよ。人を殺すからね」 「魔族を殺したら悪いやつじゃないの?」 「当たり前でしょ!魔族は敵なんだから」 「エルガはぼくを殺そうとしたよね?ぼくは魔族?」 「う、え、い、いいや。あんときは仕方なかった」 「仕方なかったか。じゃあそれでいいじゃん。仕方なかったって」 「どういうことよ?」 「ぼくは勇者をやめる。仕方なしにね」 「はあ?わけわかんないわよ!」 まあそれが一番いい選択だしね。ぼくが勇者をやめればみんな幸せになる。うん、きっとそんな気がする。 「勇者はたった今死にました!」 ぼくは高らかに宣言した。 「ちょっと待ちなさいよ!なに勝手なこと言ってるわけ?あたしはどうしてくれんのよ」 こんどは魔王が怒った。殺さないって言ってるのが気に入らないらしい。 「どうしてくれんのと言ったって、きみのことはきみ自身で決めるべきだとぼくは思うぞ」 「って何しれって言ってんじゃないわよ!誰があたしの身の振り方を聞いてんのよバカじゃないの?」 「いきなり逆切れか。相変わらずだな」 「ふざけたことばかりさっきからぬかしやがって!あんたがあたしを殺さなきゃ、まわりが収まんないわよ!」 「だからぼくは死にました。チーン。はい終わり」 「ふざけんなって言ってるんだけど!」 「ふざけてなんかいないよ、最初から。だったら君も死んだことにすればいいだろ?」 「あ、あ、あきれた!あんたなに言ってんの?」 もうこのバカ、マジでヤバイ。いかれてんのよ。もうムリ。マジ付き合えない。あたしが死んだことに?ありえない!そんなことして誰得?えーと…うーん…あれ? 「そういうことにすりゃ、ぼくらは死ななくて済むし」 「いや、あんたはわかんないけどあたしはまずくない?」 「どうして?」 「だってあとで魔王が生きてるってわかったら」 「ならそんときは勇者は生き返るって設定で」 「はあ?」 どこかで聞いた設定ね…それ。前の世界で…兄さんが夢中になってた…あとからわたしも夢中になっちゃって…えーと、それって…? 「まだわからない?『トワイライト・ワールド』…」 「失われた王国!」 「そう!伝説級のクソゲー」 「なんで?」 「真希、おまえなんだろ?」 ああ、こんなところにいた。
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