13人が本棚に入れています
本棚に追加
45 勇者は死にました
ワールド・コラープスは反則級の技だ。ゲーム会社の嫌がらせとしか思えない設定だ。勇者と言えどもまともに受けたら死んじゃう設定。しかし避けたら世界が終わる。どう攻略すればいいのかってこと。クリアした者がいないっていう伝説級のクソゲーのムリゲー。だけどぼくはクリアした。中三のときだ。それ以来忘れてた。だけどあるとき、妹がそれをクリアした。妹が中三のとき…ぼくらが死ぬ、そうその前日だった。
そいつを受けた。いや、まともに受けたら死んじゃう。でも勇者は細胞一個あれば再生できる。ぼくは受けながらそれを永遠繰り返した。ワールド・コラープスのエネルギーが尽きるまでね。あーその時間は永遠だ。まあ実際には二時間くらいだけどね。その間ずっとコントローラーを操作してなきゃならない。それもずっと同じコンボの連打で。これは辛い。ミスったらそこで終わり。ああ、今まさにその状態。
「どうして…どうしてあんたがその技知ってんのよ!どうしてその技…あんたが使えんの…よ…。それはあたしと…お兄ちゃんだけしかできない…技なの…に…」
魔王は泣き崩れていた。アホやな―。いま攻撃すれば簡単にぼくを倒せるのに。あ、そろそろエネルギーがなくなってきたようだ。いやー、まいったなー。リアルでこれやるとは思わなかった。
「あー疲れた」
「なんでよ…」
「えーと?」
「なんで死なないのよ。なんでその技知ってんのよ」
「なんでかなー」
「バカにしないでよ。わかったわよ。さっさと殺しなさいよ。あんたならできるんでしょ?」
「そりゃまあそうだけど…」
魔王は涙でぐしゃぐしゃになった顔をぼくに向けた。
「あんた勇者なんでしょ?魔王を倒しに来たんでしょ!」
「いや、べつにぼくは魔王を倒しに来たなんてことはないんだけど」
「な、なんでよ!」
「いや、なんでと言われても」
「だって勇者って魔王を倒すために存在するのよ?魔王倒してなんぼなのよ?」
「そういう設定あるのは知ってるけど、ぼくは落ちこぼれだし、誰にもそんな期待されてないし」
「だからって!」
「だから魔王を倒さなくっていいんです」
「はあ?」
これにはエルガも驚いた。魔王を倒さなくてもいい?いや空耳か?
「あんたなに言ってんのかわかってんの?みんなそいつに殺されたんだよ?どんだけ人が死んだか知ってんの?」
エルガは怒鳴って言った。冗談じゃない。いま魔王を殺さないでどうする!
「いやそれぼくに関係あるの?」
「いやいやいや、ちがうでしょ?そこは人間としてでしょ?そういう考えはありえないのよ?」
人間としてありえない?そんなのおかしいよ。
「じゃあエルガはどうして魔王を殺そうとするの?」
「そりゃ魔王は悪いやつだからよ。人を殺すからね」
「魔族を殺したら悪いやつじゃないの?」
「当たり前でしょ!魔族は敵なんだから」
「エルガはぼくを殺そうとしたよね?ぼくは魔族?」
「う、え、い、いいや。あんときは仕方なかった」
「仕方なかったか。じゃあそれでいいじゃん。仕方なかったって」
「どういうことよ?」
「ぼくは勇者をやめる。仕方なしにね」
「はあ?わけわかんないわよ!」
まあそれが一番いい選択だしね。ぼくが勇者をやめればみんな幸せになる。うん、きっとそんな気がする。
「勇者はたった今死にました!」
ぼくは高らかに宣言した。
「ちょっと待ちなさいよ!なに勝手なこと言ってるわけ?あたしはどうしてくれんのよ」
こんどは魔王が怒った。殺さないって言ってるのが気に入らないらしい。
「どうしてくれんのと言ったって、きみのことはきみ自身で決めるべきだとぼくは思うぞ」
「って何しれって言ってんじゃないわよ!誰があたしの身の振り方を聞いてんのよバカじゃないの?」
「いきなり逆切れか。相変わらずだな」
「ふざけたことばかりさっきからぬかしやがって!あんたがあたしを殺さなきゃ、まわりが収まんないわよ!」
「だからぼくは死にました。チーン。はい終わり」
「ふざけんなって言ってるんだけど!」
「ふざけてなんかいないよ、最初から。だったら君も死んだことにすればいいだろ?」
「あ、あ、あきれた!あんたなに言ってんの?」
もうこのバカ、マジでヤバイ。いかれてんのよ。もうムリ。マジ付き合えない。あたしが死んだことに?ありえない!そんなことして誰得?えーと…うーん…あれ?
「そういうことにすりゃ、ぼくらは死ななくて済むし」
「いや、あんたはわかんないけどあたしはまずくない?」
「どうして?」
「だってあとで魔王が生きてるってわかったら」
「ならそんときは勇者は生き返るって設定で」
「はあ?」
どこかで聞いた設定ね…それ。前の世界で…兄さんが夢中になってた…あとからわたしも夢中になっちゃって…えーと、それって…?
「まだわからない?『トワイライト・ワールド』…」
「失われた王国!」
「そう!伝説級のクソゲー」
「なんで?」
「真希、おまえなんだろ?」
ああ、こんなところにいた。
最初のコメントを投稿しよう!