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5 勇者、獣人と出会う
村を出てから十日経った。旅はひどいものだった。みんな首枷、足枷をはめられ、食事も一日一回、それも小石が混ざっているようなひどい味のスープだけだった。
「これじゃあ、鉱山につく前にみんな餓死しちゃうな」
ぼくは隣の少年にそう言った。顔に髭…じゃない体毛?みたいなのが生えている若い男だった。この檻のような荷馬車に放り込まれてたまたま隣につながれたんだった。まあこの荷馬車にはぼく以外みんなそんな連中だ。
「ふん、軟弱だな。そんなんじゃ鉱山に行っても一日と持たないぞ」
石ころ入りのスープをうまそうにすすりながらそいつは言った。
「いやここでもたないって言ってんだから、鉱山には生きて着けないよってぼくは言ってるんだけど」
「弱気なやつだな。だけどそう見えないんだけどな。みんなやつれているのになんでお前だけそんなに顔色いいし、元気そうなんだ?」
みんなより顔色いい?みんな体毛で顔覆われてるのになんでわかる?毛並みのこと言ってんのかこいつ?
「貧乏で食うに困ってたから、少しくらいの腹ペコなんて気になんないんだ」
「そ、そういうものか?」
変な目で見ているね、こいつ。あ、こいつはリエガという名だと言ってた。獣人族だって。えーっと、獣人族って、なんだ?そういや耳は獣っぽいし尻尾も生えている。さっきその尻尾を枕にして寝てた。
「ねえ、眠たくなっちゃった。またその尻尾借りていい?」
「バッカやろ、おまえ、こいつは大事な尻尾…あっ!」
ぼくは構わず獣人の尻尾に頭を乗せた。枕にちょうどいいんだ。いやあ、もふもふ最高!
「やめろおおお」
「変な声出すな。みんな起きちゃうよ」
「くっそー」
なんでこうなった、みたいな感じだったな。表情は覆われてる毛でわからない。
「どうして鉱山なんかに?きみんちも貧乏だったの?」
寝ころがりながらぼくはリエガに聞いた。まあ尻しか見えないけど。ぼくは村では獣人族を見たことがない。もちろん村にも来ないしね。だから初めて知り合った獣人族に興味を持ったんだ。
「うちは貧乏なんかじゃない!デリエンテの森で家族と平和に暮らしていた。まあそれほど裕福じゃなかったけど父と母と兄弟たちと仲良く暮らしていた。それが、ある日密猟者たちに捕まって…こうして売られたのさ」
「密猟者?それって人間の?」
「人間も獣人もいる。やつらはほとんど副業で盗賊もする。まったく始末に負えない連中だよ」
獣人とはこうした亜人種をさすんだろう。人間の姿のほか、動物的特徴を兼ね備えている種族らしい。ぼくは初めて見たけど、パパはよくこいつらに会ったら気をつけてろって言ってた。道徳がなく人としての教育もないからだと。でもぼくだって学校に行ったわけじゃないし、うちで教わる道徳ってそりゃ悲惨なものだったりして、ぼくはこの獣人たちとさして変わらないと思った。
「密猟とか盗賊って、それって犯罪だろ!」
「犯罪ってなに?大きい声出すな。マティムって言ったな、おまえ。人間族なんだからお前の方が詳しいだろ?人間族の村なんかしょっちゅう襲われているはずだぜ」
え?そうなんだ。そんなの見たことないぞ。そんなもん、生まれてからずっと見たことも聞いたこともない。
「ぼくは村から出たことないから知らないし。きっとうちの村は貧乏過ぎて盗賊も見逃してるんだ」
「珍しいな、人間族の村で…痛てっ!」
急に荷馬車が停まったのだ。乗ってた亜人たちは一斉に前につんのめった。誰かが急に荷馬車を止めたらしい。大声で怒鳴る声が聞こえる。
「何だろう…」
ぼくがキョロキョロと周りを見回していると、リエガが半ばあきらめたふうにしてぼくの肩に手を置いた。
「ふん、おどろくな。あれが盗賊っていうやつらさ。もうこれでおしまいかもな」
ズラッと凶悪そうな連中が並んでいた。荷馬車の護衛は殺されたようだ。血の匂いがする。ああ、やっぱりぼくはついてないんだ。
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