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「まもなく三番線に電車が参ります。黄色い線より内側まで下がって――」  出勤時間帯の駅のホーム。ロングコートを着た五十代くらいのサラリーマンが、黄色い線の手前に立ち電車を待っていた。  下げた左手にはビジネス鞄を持ち、胸の前で構えた右手は、スマホを掴みしきりに操作している。  視界の縁で佇む、妙な視線を送る人物に気付いたその男性は、顔を上げた。すると、その人物が言った。 「おじさん、そこにいると危ないですよ」  覇気がなく、何かに困っているような表情で、パッとしない印象を持った、ブレザー姿の男子高校生が、横に立っていた。  整えてあるが、くせ毛のせいでボサボサに見える髪は、櫛で手を加えた努力の跡が窺える。  細い銀縁眼鏡のレンズに届く前髪が、ホームに吹き込む初冬の風に揺れていた。    黄色い線より内側に立っているのに、危ないとは何事かと、怪訝な顔を見せた男性は「なんで?」と訊いた。 「その人が、線路に引き込もうとしてるから」  そう言った高校生は、男性の足元を指す。  その動きに吊られ、下を向いた男性は、すぐに顔を上げ高校生を睨んだ。 「からかうのもいい加減にしろ! どっか行け!」  男性の足元には、特段変わったことは無かった。  頭のおかしい子供に悪戯をされたと理解した男性は、激怒して高校生を追い払った。  男性に背を向けた彼は、渋々とホームの階段を上り改札口へと去って行く。
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