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ホームに電車が入ってくると、けたたましいブレーキ音が鳴り響き、すぐにホームが慌ただしくなった。
「サラリーマンが線路に飛び込んだ!」と、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
俯いて歩く高校生は、小さくかぶりを振り溜息を吐く。
立ち止まることなく改札機に向かう途中、急いで駆け寄って来た駅員に呼び止められた。
線路へ飛び込む直前に男性と話をしていたという情報を聞きつけた駅員が、事情を聞こうとしたのだ。
「君、自殺された方と知り会い?」
「いいえ、他人です」
「名前は?」
「櫻井陽向です」
「あの人と何を喋ったか教えてくれる?」
陽向は、駅員の左肩からすぐ上の宙をじっと見ていた。
「櫻井くんだっけ。人と話をするときは、ちゃんと顔を見てくれるかなぁ」
「駅員さんの肩に、憑いてますよ」
左肩に目を遣った駅員は、右手の背指で襟と肩の間を軽く掃う仕草をした。
「埃? 何も付いてないよ。そんなことより事情を話してくれない?」
駅員の顔へと視線を戻した陽向は、少しだけ目を細めた。
「埃じゃなくて、幽霊ですよ。駅で亡くなられたかたの」
駅員の額と頬の血色が青褪めていく。目を吊り上げてもう一度左肩を見た。
何もいない。こんな時に、不意を突かれた悪戯に引っ掛かり、怒りが爆発した。
「もういい! これ以上は時間の無駄だ」
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