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令井ショウタ
「では、また、会いましょう」
夏木は、言った。
「えっ? あ、はい」
また、この人と会うのだろうか……。
光は、疑問に思いながら、そう、答えた。
夏木は、大島の方へ、歩いて去って行った。
光は、大学に入って、近くの本屋で、アルバイトを始めていた。
『あかり書房』
という、小さな書店だ。
今日も、レジ打ちをしていると、カウンターに、無造作に、本が置かれた。
置かれた本を見た、光は、その本を買った主に、強い興味を持った。
光の大好きな、自由律俳人『尾崎放哉』の句集だったからだ。
買った主を見ると……。
あの、令井ショウタだった。
「あ……」
光は、思わず、声が出た。
ショウタも、光に気付いた。
「あ……あんた……」
光は、レジを打ちながら、訊いた。
「好きなんですか? 放哉」
ショウタが、意外そうに言った。
「あんた、知ってんの? 放哉」
「ええ、とても、好きなんです」
そう、光が答えると、ショウタは、
「へえ……」
と、光を見つめた。
それから、ショウタは、言った。
「この前は……」
と言いかけたところで、次のレジ待ちの客が来た。
ショウタは、金を払うと、レジを離れて行った。
何を言おうとしたんだろう……。
光は、ショウタの後ろ姿を目で追いながら、思った。
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