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若い男は、頭からつま先まで、ずぶ濡れになった。
「あんた! サイテー!!」
女子学生は、そう叫ぶと、走り去った。
しかし、若い男は、突っ立ったままで、驚いた様子もなかった。
「なんか、あの清掃員のレイっていう人、手あたり次第付き合って、すぐに捨てるんだって」
光は、そう、声をかけられて、振り返った。
同級生で、一番仲のいい藤田陽子が、レイという若い男を、軽蔑に近い目で見ながら、言っていた。
その陽子が、光の隣に来た。
光は、訊いた。
「……そうなの? あの人、レイっていうの?」
「うん。命令の『令』に、『井』で、令井。令井ショウタ。この大学専属の清掃員。……だけど、めっちゃイケメンだよね~。でもさあ、イケメンって、大抵性格悪くない?」
陽子が、顔をしかめて言った。
「……そうかな? 陽子ちゃんの偏見じゃない?」
光は、そう答えた。
「えっ? 光ってああいうタイプが好きなの?」
陽子が、驚いて訊いた。
「え……そうじゃないけど……」
光は、曖昧に答えた。
確かに、好きなタイプではない。
でも……気になってしまった。
ずぶ濡れのまま、足元に転がった空のバケツを持って、歩いて去って行くショウタの後ろ姿を、光は、ずっと見つめていた。
そのショウタと、思いもせず、言葉を交わすことになったのは、次の日のことだった。
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