第一章 最低な男

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「今度、遅刻したら、首だからな!」 大島は、そう、倒れているショウタに、言い捨てると、大股で歩き去った。 光は、その様子を、固唾を飲んで見ていた。 ショウタの唇は、切れて、血が滲んでいた。 光は、思わず、持っていたポーチから、ハンカチを出して、おずおずと、ショウタに差し出した。 「どうぞ……」 光は、躊躇いがちに言った。 「えっ?」 ショウタは、不思議そうに、光を見た。 「唇……切れてるから……」 光は、小さな声で言った。 ショウタは、唇を手で拭った。 手に、赤い血が付いた。 光は、ポーチから、カットバンも出して、差し出した。 「これも、どうぞ……」 「いらねー、余計な事すんな!」 ショウタは、そう、言うと、光の手を払った。 その拍子に、ハンカチとカットバンは、体育館沿いの側溝に落ちた。 「あっ!」 光は、思わず、声を上げた。 そのハンカチは、かわいい犬のキャラクターが付いたお気に入りのものだったのだ。 失くさないように、「ヒカリ」と、隅に刺繡もして、大切にしていた。 しかし、側溝には、鉄の柵がしてあり、ハンカチは、拾えなかった。 光が、残念そうに、覗き込んでいると、ショウタが言った。 「余計な事、するからだ!」 そして、ショウタは、歩き去ってしまった。 光は、どうにか、鉄の柵を外そうとしたが、女の力では無理だった。 渋々、泣きたい思いで、諦めた。 しかし、その様子を、ショウタと同じ清掃員の格好をした初老の男が、見ていたことに、光は、全く気付かなかった。 そして、そのハンカチと、意外な場所で再会した。
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