第一章 最低な男

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光は、奨学金を受けて、大学に通っていた。 その追加書類を、大学に提出するために、事務所へ行った。 事務所の前には、ガラス窓があって、そこから、事務員と話すのだ。 光は、ガラス窓を、コンコンと叩き、事務員に、ガラス窓を開けてもらった。 「すみません。奨学金の追加書類を持ってきました」 光は、事務員の女性に、そう言った。 「ああ、はい、はい」 事務員の女性は、慣れた様子で、書類を受け取った。 光が、帰ろうとして、ふと、横を見ると、箱が置いてあった。 よく見ると、『落し物入れ』と書いてある。 光は、何気なく、中を覗いた。 すると、あのお気に入りの犬のキャラクターが見えた。 「あっ!」 光は、思わず声を上げた。 それは、あの側溝に落としたはずの、自分のハンカチだった。 ちゃんと、隅に「ヒカリ」の刺繡もある。 間違いない。 しかし、不思議なことに、ハンカチは、綺麗に洗われて、きちんとアイロンもかけてあった。 「あの~」 光は、席に戻ろうとしている事務員の女性を、呼び止めた。 「このハンカチ、持って来てくれた人、誰ですか?」 光が訊くと、事務員の女性は、言った。 「一応、そこの紙に、拾った場所と、名前を書くことになってるんだけど」 光は、その紙を、見た。 ずっと、書いてある字をなぞって見てみたが、ハンカチのことは、書いてなかった。 「まあ、書くのが面倒臭くて、書かない人も多いから……」 残念そうな光を見て、事務員の女性はそう言った。 光は、不思議な謎に、首を傾げながら、そのハンカチを引き取った。
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