31人が本棚に入れています
本棚に追加
大学には、綺麗に整備された、中庭があった。
晴れた日には、木々の間から、キラキラと輝く木漏れ日が落ちて来て美しい。
光のお気に入りの場所だった。
光は、いつも、この場所でお昼の弁当を食べることにしている。
親友の陽子は、いつも学食だ。
今日も、中庭のベンチで、手作りの弁当を、膝の上に広げていた。
弁当の下には、あの、戻って来たお気に入りのハンカチをひいている。
「ここ、いいですか?」
そう、声をかけられて、弁当から顔を上げると、清掃員の格好をした初老の男性が、立っていた。
「あ、はい。どうぞ」
光は、そう言って、ベンチの隅に寄った。
男性は、
「よっこいしょ」
と、座りずらそうに、ベンチに座った。
どうも、腰を痛めているようだ。
光は、弁当を食べ終わり、トートバッグにしまった。
膝の上には、ハンカチが残った。
そのハンカチを見て、男性が言った。
「可愛いハンカチですね」
光は、褒められて嬉しくなった。
「はい。お気に入りなんです。失くしたと思っていたから、戻って来てとても嬉しいんです」
男性は、微笑んだ。
そして、言った。
「それは、良かったですね。アイロンまでかけてあったでしょう?」
「えっ?」
光は驚いた。
「じゃあ、あなたが拾って下さったんですか?」
男性は、優しく笑った。
「いいえ。私ではありません」
「じゃあ、誰が……?」
光が訊いた時、遠くで、あのショウタを殴った大島という男が、叫んだ。
「夏木さーん! 休憩、終わりだー!」
夏木と呼ばれた男性は、立ち上がりにくそうに立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!