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私は一人起き上がり、一人ずつ寝顔を見詰めてそれを胸の奥にしまった。立ち上り窓ガラスを通り抜けると外はいい天気で爽やかな風が吹き通っている。私は空を見上げて話し掛けた。
『神様、聞こえてますか?私、もう今回で地上に帰るのは止めます。今から、戻りたいの』
暫く間を置いて、上から声が返って来る。
「おや、楓さんか。どうしたね?帰って来るにしては早いが?まだ時間はあるのではないか?」
『うん。そうだけど、もういいの。あ、自棄になってる訳じゃないよ。家族が増えた事で三人共もう大丈夫だから。何か清々しい気分』
「そうか、うーん……」
『どうしたの?』
「いや、人手が減るなぁ……と」
『ぷふふっ、それかあ、それなら大丈夫。仕事は続けるから』
「え?いいの?しかし、無償と言う訳には」
『じゃあ、小さな幸せを家族に頂戴。何でもいい。記念日に晴れにしてくれるとか』
「結構大変なんだが、まあいい。それで手を打とう」
『……じゃあ、私を帰して』私は体を浮かせ風に乗る様にして漂った。
上空に昇るにつれ、空色のチュニックワンピースと同じ今日の空の色――その蒼に体が染まってゆく。
元々実体としての体はずっと前から無いのだから何も怖くはない。
体がこの大空になったら何時だって大好きな家族を覗けるもの。
直衛君、秋穂、春樹――遥かな高みから見てるからね。
千絋さん、三人をよろしくお願いします。絶対、幸せになってね。
みんな――ありがとう。
そして、私は空色に包まれた。
END
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