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自由落下の向こうに
成層圏――高度一万メートル。
私はその高みを自由落下する。
私に本当の体があったなら、顔を打つ風の冷たさを感じる事だろう。
風圧に押されまくったその顔は、自分や家族が見たら引いてしまうくらいの変顔になっているに違いない。
でも大丈夫、今の私には肉体――つまり実体が無い。
ストレートロングのその髪はまるで吹流しみたいに後ろに長く棚引いている。
『なんて気持ちいいんだろう。気分爽快』
更に落下を続けた私は、身に付けた空色のチュニックワンピースが激しくはためく様を見て微笑む。
『いい感じ』そう思いながら、私は呟いた。
「もうすぐ会いに行くよ」
直衛君、秋穂、春樹、みんな元気かなぁ。一年振りだもんね。子供達の成長にも期待、期待。
ニンマリとニヤついた、ちょっとだらしない笑みを浮かべて、私はグングン落下して行く。真っ白な分厚い雲を幾つも突き抜けて。
高度が下がるにつれ、私の視界に慣れ親しんだ景色が飛び込んで来る。
「あ、秋穂と春樹が通う小学校だ。学校前の大きな通りを真っ直ぐ行って、右に曲がると我家だぁ」
地上三十メートル――落下スピードを落とした私は、そこにふわりと浮かんで一年振りの地上を見渡した。
私が不慮の事故であっけなくこの世を去ってから四度目の里帰り。
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