1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
お墓を綺麗にしてから住職さんが読経している間、水沢さんは落ち着かない春樹の肩に手を置いて佇む。時折彼女を見上げる春樹と目を合わせては微笑みながら。
秋穂はお姉ちゃんらしく、直衛君は父親らしく、夫らしく粛然と佇む。
読経を終えると住職さんの「彼方に飲物とお菓子を用意しましたのでどうぞ」という案内に従い四人は建物へ歩き始めた。
その時、 直衛君がこの日初めて話し掛けた。
「水沢さん、いいですか?お話しがあります。秋穂、春樹と一緒に先に行ってご馳走になりなさい」
水沢さんは戸惑いながら何か返そうとしたが、秋穂の「春樹、行こう」という言葉に遮られた。
二人は私のお墓の前で向かい合った。
『私のお墓の前で、って言うか、私の前で……なの』
「御崎さん……此処で、ですか。あの、奥様のお墓の前で」
水沢さんも私と同意見みたい。私は一層の事、何処かへ翔んで行きたい気持ちになる。でも、気にもなる……どうしたらいい?
「はい、此処で。僕は楓に隠す事は何一つありません。貴女に気持ちを伝えるのは、楓との約束ですから」
私は胸の内で「あっ」と声を上げた。そっか、そうなんだね。直衛君、覚えてくれてたんだ。
「楓と一緒になった時、三つの約束をしました。水沢さんにも訊いて貰いたくて」迷いと困惑の入り混じった表情の水沢さんを直衛君はしっかりと見詰める。
最初のコメントを投稿しよう!