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「えー、お母さんこれトマトじゃん。なんで入れたの?」
「あなたまたそんなこと言って、トマトはお友達よ。仲良くしないと。」
ああ、また始まった。お母さんの謎持論、野菜は友達が…
「いくら友達でもまずいものはまずいんですー、だから仲良くできません。ご馳走様。」
「あっ、こらトマト君も食べてあげないと、ケンカはよくないよ。」
全く今年十五歳の娘に何を言ってるんだか。今に至るまで食べれなかったんだからもう無理だって。それにあの赤い見た目、あれを見ておいしそうだと思える人の気が知れない。それになんか変に青臭いし甘くて酸っぱいし。どれか一つにすればいいのに。とまあこのようによくある好き嫌いで私とトマトはもうずっと母に言わせればケンカ中なのである。それなのに母はめげずに今日の夕食にもトマトを出してきた。全く、早くあきらめればいいものを。
「じゃあ私ご飯も食べたしもう寝るね。お休み。」
「仕方ないわねもう。お休み私の可愛いベイビー、いい夢見るのよ。」
15歳の娘を捕まえてベイビーなんぞと呼べるところからもう御察しであろう。私の母はいわゆる不思議ちゃん?不思議BBAである。父はそんな可愛いところがいいんだ何だとほざいていたが、その不思議度は度を超えている。以前かかってきたオレオレ詐欺を娘が目の前にいるのにかかわらず信じたり、通販では個数を間違えてトイレットペーパーを20個買ってしまうなどかなりパンチの効いた母なのだ。それでも不思議BBAなのとトマトを食べさせようとしてくる所以外は穏やかで優しい母である。
「夜にトマトの匂い嗅ぐとか最悪、もう寝ちゃお。」
育ち盛りの15歳、身長が低いことがコンプレックスな私にとってゴールデンタイムを逃すなんぞ死活問題である。ということで私はお休み三秒で眠りについた。
「…ん、ちゃん、一葉ちゃん。起きて。」
「んぅー、もう何お母さん夜だよぉ。」
全くこんな夜遅くにいったいなんだというのだろう。また家にゴキブリが出たのだろうか。だからゴキブリホイホイを買えとあれだけ、
「お母さんじゃないよ、僕だよ僕君の友達トマトだよ。」
「もう冗談やめ、て?」
仕方なく顔をあげると、そこにはプチトマトが顔中についた人形らしきものが私をじーっとのぞき込んでいた。
「いゃああああ、な、何?!」
謎の訪問者に私は動揺を隠しきれず、危うくロフトベットから落ちそうになる。
「あらあら大丈夫?驚かせちゃったね。ごめんよ。だけど僕どうしても君と仲直りがしたかったんだ。」
「は?え?な、何なの一体?」
「だから言ったじゃないトマトだよ。忘れちゃったの?僕たち友達だったじゃない。」
記憶をいくら遡ったところで、このような気持ち悪い生物と友達だった記憶などない。
「なんで最近僕を食べてくれないの?リコピン接種しないと肌奇麗にならないよ?」
首をこくりとまげてこちらを見てくるが、やめてくれ顔についた無数のトマトが目に見えてきた。
「ごごめんね、だけど私トマト苦手なんだ。」
一体何を言っているのだろう。トマトに謝るとか、わけワカメ意味フミコなんだか。とにかく眠くて頭が働かないからここはいったんご帰宅願おう。
「ごめん私眠いから、もう帰って。」
「そんなどうして、僕のこと嫌いになっちゃったのひどいよっ。」
やめてくれ顔に近づいてくるんじゃない青臭いじゃないの。
「仲直りしてくれるまで僕帰らないよ。ほら、ボクを、タベテ。」
すると急にトマト君は自身の顔面からプチトマトをもいで私の口に押し込んできた。もがれた隙間から冷たい瞳が覗く。
「やっと食べてくれた。これで仲直りだよ。でもまた食べてくれなかったら何度でも会いに来るから。お休み、いい夢見てね。」
私は恐怖と口にトマトを詰め込まれた衝撃で死んだように眠ったのだった。
「おはよー、お母さん。」
「あら顔色悪いけど大丈夫?」
「平気だよ。」
「本当に?心配だわ。ご飯食べて元気出して。」
朝起きるとあのトマトな生物は消えていた。しかし部屋に残ったわずかな青臭ささがさっきまで彼がここにいたことを物語っていた。
「今日もママ特製愛情プレートよ。そろそろ仲良くしてほしいなーってトマトさんも会いに来てくれたわよ。」
こちらをのぞく二つの目のように、プチトマトが転がっている。ああ、食べたくないだけど、食べなきゃあいつがまた来るんじゃ。仕方ない飲み込もう。そう決心し私は勢いよくトマトを二粒口に放り込み、噛まずに飲み込んだ。
「まあ、やっと仲良くできたのね!?よかったわぁ。こんなことなら早くああしておくんだったわ。」
こうして私とトマトは無理やり仲直りさせられたのであった。
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