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フランツ②
援助を受けた負い目から、男爵夫妻の頼みを断れず、再びニーナの茶会に出席するようになった。
しかし、回を重ねるごとに親たちは、俺とニーナが結婚するものだと決めつけてかかるようになった。
確かにニーナの将来について男爵から頼まれたし、娘の将来を心配する気持ちもわからなくはない。
けれど、それと結婚は別の話だ。
親の事情に巻き込まれ、生涯添い遂げる相手まで決められるのは納得できなかった。
私はそれから必死で考えた。
なにも持たない自分が身を立て、男爵から受けた恩を返す方法を。
本を読み、兄にも相談し、幾日も考えた。
そして導き出した答えが、騎士になることだったのだ。
剣などろくに持ったこともない私が、騎士の道を志すということが、どれほど大変なことか。想像しなくてもわかる。
しかし、万が一にも武勲を立てることができれば、この名ばかりだった身分も追い風になり、十分な報奨が望めるかもしれない。
そして騎士としての将来も。
戦場に送られれば命を失う可能性があることだって、考えなかった訳じゃない。
けれど、親の言いなりになる人生を歩むより、ずっといい。
初めて親に話した時は反対されたが、私はそれからも根気よく両親を説得し、最終的に納得させることに成功した。
もちろんクルト男爵にも同じように、わかってもらえるまで何度も説明し、最終的には頷いてもらった。
ニーナはなんだかんだとうるさく騒いでいたが、こうして私は無事騎士団に入団を果たすことができたのだ。
初めて訓練を受ける日。
屈強そうな男たちが居並ぶなか、私は緊張し、身構えていた。
しかしいざ始まってみると、意外にもこの環境は私の性に合っていた。
気の置けない仲間と一日中訓練に明け暮れる日々は、子どもの頃、兄たちと領地を駆けまわっていたあの頃を思い出させた。
そして、入団して半年ほど経った頃のことだった。
私に、運命の日が訪れた。
『おい、見ろよ!きっとあれは、ローエンシュタインの真珠だぞ!』
『本当だ、家紋も確かにローエンシュタイン公爵家のものだ!』
──ローエンシュタインの真珠?
聞きなれない言葉に顔を上げると、先輩たちが城門の近くに群がって騒いでいた。
王都の騎士団の屯所は王城に隣接していて、人の出入りもよくわかる。
時折訪れる、美しく着飾った令嬢を盗み見るのが、男ばかりのむさくるしい場所で暮らす騎士団員たちの、唯一の楽しみらしかった。
女性と言えばニーナぐらいしか周りにいなかった私は、女性に興味というものがどうにも湧かなかった。
加えてあの楽しくもない茶会の記憶。
女性とは面倒なものだという認識しかなかった。
なので、いつもその人だかりを遠巻きに見ているだけだった。
しかし、今日はいつもと様子が違う。
やけに騒がしい。
『お前も見てみろ!あんな美女、滅多にお目にかかれないぞ!』
私はちょうど武器の手入れをしていたので気が進まなかったが、先輩に手招きされて、新入りが逆らえるわけもない。
仕方なく向かった先で目にした光景に、私は雷に打たれたような衝撃に襲われた。
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