フランツ⑤

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フランツ⑤

 そして、戦場にはラングハイムの国旗が立てられた。  敵を掃討することに夢中だった我々騎馬隊は、相手がいつの間にか敗走を始めていたことに気付くのが遅れた。  終わってみれば、我々は敗走を続ける兵士をエストールの領土まで追いかけ、完全に撤退させていたのだ。  まさに奇跡のような逆転勝利だった。  騎馬隊を率いた私は今回の働きで“英雄”だともてはやされ、なんと叙勲を受けることになった。  私だけじゃない。あの時共に戦った同志は皆英雄だ。だから叙勲を受けるなら皆でと願ったが、それは聞き入れられなかった。  部下たちは別段気にしていない様子で、式典後の宴に出れることを喜んでいたのが救いだった。  そしてやってきた式典の日。  式典用の騎士服に袖を通し、会場へと足を運んだ私に再び奇跡が起こる。  玉座の横にいるはずの王子殿下方はそれぞれ欠席。ダミアン第一王子殿下はエストールとの交渉へ。ヨハネス第二王子殿下は、万が一のために備え友好国へ援軍の要請に出向いたのだと聞いた。  玉座の置かれた壇上より一段下がった場所。     王に次いで一番位の高い人間が立つその場所に、なんとリゼル嬢がいたのだ。  会場に入った瞬間にわかった。  彼女の周りだけ光に包まれているようだったから。  赤い絨毯を挟んで向かい合うも、緊張しすぎて顔を見ることができない。  あんなにも憧れて、恋い焦がれた人が目の前にいるというのに。  『フランツ・ロイスナー!』  名を呼ばれ、陛下の前へ行く途中、彼女の視線が自分に向けられていると思うだけで身体中から汗が噴き出した。    どうにかして、ほんの少しでもいい、彼女の瞳の色を見てみたい。  けれど、どうしてもできなかった。  なぜかはわからないが、彼女の視線を痛いくらい感じたから。  信じられないことはまだ続いた。  叙勲を受けてから少し経ったある日。  なんと、ローエンシュタイン公爵から、私宛に手紙が届いたのだ。  震える手で封を開けるとそこには、ローエンシュタイン閣下の愛娘リゼル嬢と、私を娶せたいという旨が記されていたのだ。  私は、頭の中が真っ白になった。  リゼル嬢と私が結婚?  そんな、いったいこれはなんの冗談なのだ。  あまりにも信じられない内容に、毎日毎日、暇さえあれば手紙を読み直した。  だが、何度読んでも到底信じることができなくて、返事を返せないでいた。  すると上官に呼ばれ、“閣下に早く返事をするように”と叱られた。  おそらく閣下が痺れを切らし、せかしたのだと思われる。  大変失礼なことをしてしまったが、答えなんて決まっている。  ──こんなことがあっていいのか  リゼル嬢……遠くから眺めているだけで、それだけでいいと思っていた彼女の側にいられるだけでなく、その伴侶になれるのだ。  私は跪き、涙を流してこの幸運を神に感謝した。    このあと、なにが待ち受けているのかも知らずに──  
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