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フランツ⑪
内出血の痕が消え、久し振りにローエンシュタインの城に戻ると、見慣れない使用人がいることに気づいた。
家令に訊ねると、最近体調を崩しがちな義父上の代理を務めるようになったリゼルの役に立てばと、ダミアン殿下がよこした王宮の財務官だという。
ダミアン殿下の名前が出ただけで、嫌な考えが頭をよぎった。
──まさか、私を監視するために送り込んだのだろうか。
しかしリゼルが慣れない仕事に四苦八苦していることは知っていたし、それを私に手伝わせようとせず、ひとりで抱え込んでいたことも知っていた。
だから私は、もしかしたらダミアン殿下が本当にリゼルを心配して、財務官をよこしたのかもしれないと考えた。
いや、きっと私がそう思いたかったのだ。
これはダミアン殿下の良心だと。
しかし、そんな小さな望みはいとも簡単に打ち砕かれた。
『どうしてこんな酷いことができるの!?あなたとニーナ様のことは知ってたわ!!知ってたけど……まさか、まさかこんなことをするなんて……!!』
ある日、いつものようにローエンシュタインの城に帰ると、リゼルが見たこともない剣幕で階段を下りてきた。
手にはローエンシュタイン公爵家の帳簿が。
突然のことに加え、リゼルの口からニーナの名前が出たことに、わけが分からず混乱する私にあの男が目配せをした。
あの、ダミアン殿下の命でやってきた財務官、マルコだ。
リゼルが言うには、私がローエンシュタイン公爵家の財産を横領し、クルト男爵家へ内密に援助を行っていた証拠が見つかったという。
勿論そんなことしていない。
そもそも私は公爵家の内情に一切触れていない。そう望んだのは他でもない、リゼルだ。
私が騎士の道を邁進できるようにと。
【貴様のような奴には罰を与えなければな】
ダミアン殿下の言葉が蘇る。
まさか“罰”とはこのことなのか。
マルコは誰にも気づかれないよう、僅かに唇を動かした。
何も言うな
リズは青い瞳いっぱいに涙をためて、私を詰り続けた。
違う。私じゃない。ニーナとだって会っていない。私が愛してるのは君だけだ。
そう叫んでしまいたかった。
なにもかも本当のことを打ち明けて、それでダミアン殿下に殺されるとしても、こんな飼い殺しのような生活を続けるよりはずっといい。
けれど──
親兄弟にはなんの罪もない。
そして何よりも……リズ、君だ。
愚かな私は、こんな目にあっても尚、君の側にい続けたいと思っている。
私は本当に馬鹿だ。大馬鹿だ。
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