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「あの。横田さんは」  と、まりえは恐る恐る訊いた。 「……ご存知なんですか」 「はい。祖母に聞きました」  まりえが肯くと、匡久は自嘲するように苦笑した。 「そうですか。ほとんど父が処置してくれていて、今は市立病院に」 「あの」  まりえは息を呑む。  匡久が間に合っていれば、父親が処置したり、転院する必要はなかったのではないか。 「それって、私のせいで」 「まさか」と匡久は驚いた顔をした。「すみません、ご心配をおかけして」  心配より、自分のことばかりかまけていたことに、まりえは情けなさと罪悪感を感じる。 「僕がまた、父に助けてもらったというだけですよ」  優しい人だ、と、まりえは泣きたくなる。  匡久はまた石を拾い、右腕を大きく後ろに振って構えたところで動作を止めて、まりえを見た。 「やってみます?」 「え? いえ、いいえ……」 「そうですか」  と、握っていた石を、ぽとりと離す。 「あの」と匡久は真剣な眼をして、まりえを見る。 「あの。今日はすみませんでした。僕はこんなで、これからも、ずっとこんな仕事だけれど……。もし嫌でなかったら、また今度、二人で会ってくださいませんか」  まりえは戸惑った。 「……は、はい、私で良ければ。でも先生、」 「はい」 「先生、お付き合いされている方、いらっしゃらないんですか」 「え」  匡久はぎょっとしたような顔をした。  やっぱり、今こんな話をするのは不謹慎だったか、と思う。でも聞いてしまっておきたかった。  が、匡久が驚いたのは別のことのようだ。 「僕……、そんな軽そうに見えます?」  まりえは慌てて言った。 「あ、いえ。全然、そんなわけでは。でも、もっとちゃんとした相応しい方が……」 「あの。僕は……」  そう言って匡久は少し俯く。 「いま言うのは変かもしれないけれど」  それからゆっくりとまりえの眼に視線を合わせた。 「僕は、あなたが好きです。お付き合いしていただけませんか」  まりえは息を呑んだ。  せせらぎの音が、耳から遠のいてゆく。  匡久の凛とした声が、耳の奥で言葉になって意味を持つ。まりえは何度も、その言葉の意味を反芻する。  そんな資格があるだろうか。でも。  匡久の言葉が、心まで沁み渡ってゆく。 「私も、」とまりえは言って、匡久を見上げ、その瞳を見る。  ーー私はもっと強く、もっと優しくなるんだ。助けてもらうばかりじゃなく、このひとを助けられるように。  そう心に誓い、告げた。 「私も、あなたが好きです」  匡久は優しく微笑った。  まりえの眼から、涙が溢れた。  - 終 -
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