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果たして、そこに車は一台も見当たらない。そして、駐車場からすぐ見える外来棟の入口にも、誰もいない。
「勝ったよ! おばあちゃん!」
まりえは興奮して叫んだ。
「まあ。ありがとう、ありがとうよ、まりちゃん」
祖母も声が上擦っている。
「お礼は後、後」
まりえは、腰の痛い祖母のために、外来棟玄関の一番近くに車を停めた。そして窓を開け、祖母を車に残して、まだ施錠されている玄関の自動ドアの前に立つ。
今日は暑くなりそうだ。
七時五十九分になると、綺麗に化粧して日傘を差した、七十代前半と思われる田中さんが現れた。
彼女は、化粧っ気もないまりえを一瞬睨みつけると、
「今日はずいぶんお早いのね」と言った。
「ええ、まあ」と、まりえは言葉を濁す。
「何時にいらしたの」
「さっきですよ」
まりえは嘘をついた。そうしなければ、田中さんが次回、今日のまりえたちより早い時間にやってくる可能性がある。
その後も、続々と常連患者さんたちが現れ、列を作る。
受付が始まる八時半には、すでに十人以上の患者が待っていた。
まりえは一番にドアをくぐり、受付の女性に祖母の診察券を手渡す。その診察券を返されるときに、『1』と書かれたプラスチックの番号札をもらった。
その番号札を持って、車にいる祖母を迎えに行く。
「おばあちゃん、やったよ」
「まあまあ、まりちゃん。本当にありがとうよ」
祖母は満面に笑みを湛えながら、車を降りて病院に向かう。
八十五歳の今も矍鑠としてはいるが、最近めまいがしたり、ずいぶん疲れやすくなったらしいのが、まりえは気になっていた。
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