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ーーやっぱりヒラヒラすぎる。
まりえは鏡を見ながら焦っていた。
土曜日に奈穂が選んでくれた服は、淡い空色の生地で、柔らかくフレアのある膝下丈のスカートにふんわり少し長めのシフォンをかけた、上品な型のワンピースだ。それに合わせて、白いレース編みのボレロを買った。
普段、スカートさえ滅多に穿かないまりえには抵抗のあるワンピースだが、奈穂と店員さんの「お似合いですよ」攻撃に負けて、うっかり買ってしまった。
ーーこんなので外に出るなんて恥ずかしすぎるよ。
と思うまりえだが、早く行かないと時間がないし、ほかに着ていける服がない。
日焼け止めの上に、これも新しく買ったファンデーションを塗り、粉おしろいをはたいて、いつものリップグロスとチークを少しだけ濃いめにつける。アイラインは難しかったので諦めて、ピンクのアイシャドウをぼかし、睫毛をビューラーで丁寧に上げてマスカラを塗る。
せめて両親に会わないように外に出ようと思っていたが、間の悪いことに、『フラワーショップ サカキ』は本日店休日である。
玄関に父親がいて、目を見開いてまりえを見た挙句、
「馬子にも衣装だな」
と呟いたが、誰とどこに行くかは聞かれなかった。
ワンピースに合わせて買ったハンドバッグを持ち、傘立てから日傘を抜いて、白いミュールを突っ掛けただけで、逃げるように家を出る。
美術館はアーケード街のそばにあり、まりえの家からは歩いて行ける。
だが暑いので、まりえは車で行くことにした。
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